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第八話 3

 過ぎしてしまえば、すぐに普通の日々はやって来る。今日も僕は大学で教鞭をとっていた。


「エジプトは、カイロからアスワンまでの上エジプト、カイロから地中海までの下エジプトに分けられる。上エジプトにはヘルモポリスの神話がある。神様は、オグドアドと呼ばれるカエルの顔をした男とヘビの顔をした女のカップル四組の八人で構成され、この八人で産んだ睡蓮の花から太陽神ラーが生まれたとされる。また、トキやヒヒで表される知恵を司るトト神もヘルモポリスで信仰された。トト神はヒエログリフを作ったとされる。知恵の神、書記の守護者、時の管理人、楽器の開発者、創造神などとされ、多くの信仰を集めた。この話は、次回の授業で詳しく説明するとして、今日は、下エジプトのヘリオポリスの九柱神が登場する神話について説明します。まぁ、初歩の初歩だけど、この九人の神様の名前を言って貰おうか」


 資料から顔を上げた時に、ちょうど目の合った眼鏡を掛けた男子生徒に、「じゃあ、そこの君」と指名した。


「えー、創造の神アトゥム、大気の神シュウ、湿気の女神テフヌト、大気の神ゲブ、天空の女神ヌト、大地・冥界の神オシリス、豊穣の女神イシス、戦争・砂漠・嵐の神セト、葬祭の女神ネフティスです」


「正解。この九人の神様は、いうなれば直系家族です。まず、この世はヌンと呼ばれる原始の海が広がっており、この海からアトゥムが誕生する。アトゥムは男性だが、一人で息子のシュウと娘のテフヌトを産み、シュウとテフヌトが結婚して息子のゲブと娘のヌトを産む。ゲブとヌトは仲が良かったのかずっと抱き合った状態だったようで、それを父のシュウが引き離して、天と地が造られた。大地にゲブが横たわり、ゲブを覆うようにヌトが手と足で逆ブリッジしている図は、人気があったのか、かなりの数が残されている。そして、ゲブとヌトが、オシリス、イシス、セト、ネフティスの四人の子供を産む。この四人とオシリスとイシスの子供であるホルスが騒動を巻き起こすのが、ヘリオポリスの神話の中心になっている。

 オシリスはイシスと結婚し、セトはネフティスと結婚する。老いた太陽神ラーの後継者に選ばれたオシリスにセトは嫉妬し、画策して殺そうとする。セトは、オシリス夫婦を宴会に招いて、立派な棺桶を披露し、この棺桶にぴったりの人物に進呈しようと提案する。招かれた客は順番に棺桶の中に入るが、オシリスが入った途端、家来に蓋を閉めさせナイル川に流してしまう。棺桶はビブロスの地に流れ着き、芽を出し立派な大きな木に育つ。そのオシリスの棺桶を抱いた木は王宮に運ばれ、王宮の柱になっていた。それを突き止めた妻のイシスは王宮に潜り込み、棺桶を返してもらうのだが、またもやセトによって邪魔され、今度はオシリスの遺体を十四個に分解してナイルにまき散らしてしまう。

 イシスは、ネフティスの息子のアヌビスやワニの神セベクの力を借りてそれらを回収するが、男性器だけ魚に食われて回収できなかった。アヌビスは、バラバラの体を縫い合わせて包帯で巻いた。これが、ミイラの始まりと言われている。そして、魔法が使えるイシスは、オシリスの復活を試み成功する。しかし、不完全な体では現世にとどまれず、オシリスは冥界の王となった。

 かいつまんで説明したが、イシスは、この後、息子のホルスとセトとのいざこざに巻き込まれたりするが、彼女は良妻賢母なんだよね。また、魔法の力を身に付けていたとされ、ヌビアのフィラエ島やナイル河畔のサイスにイシス神殿が作られており、古代エジプトでは最も崇拝された女神となった。このヘリオポリスの神話を読むことを課題にしていたので、みんな内容は分かっているとは思うが、もっと詳しく踏み込んで読むと面白いので、もう一度読んでみて欲しい。

 復活したオシリスは、ファラオの墓の壁画や死者の書に冥界の王として登場し、死者があの世に行けるかどうかの判断を下す裁判官の役目を果たしている。要するに閻魔大王みたいな存在だね。ただし、オシリスは知恵も情けもあり、しかも美男子で非の打ち所がないとされ、閻魔大王とは似ても似つかない人物だったらしい」


 僕は、授業をしながら、複雑な気持ちになっていた。棺桶に入れて川に流すなんて、まるで黒木猛はセトじゃないか。ただし、自分がオシリスなら、光栄だとは思ったのだが……。


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