第七話 10
美豊と隼人が二階の客室で目覚め、階下に降りて行くと、黒木猛は「おはよう」と言った。
美豊は、書斎に駆け込んだが、あるはずの木棺が消えており、不審に思った美豊は黒木猛に「先生はどこですか?」と訊いた。
「ああ、彼なら用事が出来たのか、朝一番の電車で東京に帰って行ったよ。また、帰って来ると思うけど」
美豊は、携帯を取り出してGPSで蘇生介の位置を確認し始めた。蘇生介は移動し続けているが、それは南東の東京方面に動いているのではなく、北に向かっていた。
「あなたは、嘘を吐いてますよね?」
「嘘なんか吐いていないよ」
「いいえ、信用できません。そのために、私は先生について来たんですから!」
「えっ?」
「お邪魔しました! 失礼します!」
「ほら隼人、行くわよ!」と美豊は隼人の手を引き、玄関から出て行った。そして、携帯を駆使し始めた。まず、一一〇番通報し、パトカーを別荘まで呼び寄せると、パトカーに乗って警官にGPS画面を見せて追跡させた。どう考えても、蘇生介は千曲川に沿って移動しているようだった。
「先生は、この川のどこかに浮かんでいますっ!」
「ええっ! 浮かんでいるってどういうこと?」
「棺桶の中に入ってるんですっ!」
「はぁっ? 生きたまま流されているの? そんなバカな……」
「そんなバカなことをアイツはやったんですっ! 早くしないと先生が死んじゃうっ!」
「そうだよっ! 先生が死んじゃうっ!」
隼人もそう叫んだ、
美豊は警官と押し問答しながら、パトカーを千曲川沿いに走らせていた。