第七話 7
「先生、さっきの電話、誰からの電話だったんですか?」
いつも、僕のプライベートには首を突っ込んでこない美豊が、珍しく僕に訊ねた。
「いや、ちょっと……」
「先生、隠したってダメですよ! 荘子さんが言ってた黒木猛という人なんじゃないですか?」
「えっ」
「ほら、やっぱり! 先生! 私、教養のないバカだけど、勘は鋭いんですよ。だから、バカにしないで貰えますか?」
「別にバカになんかしてないよ」
「どうして断らなかったんですか? 土曜日に行くって言ってましたよね?」
「そ、それは、そのぉ……」
「理由を言わないんだったら、今から荘子さんに電話しますよっ!」
「分かった、分かった、それだけは勘弁してくれ。実は、ツタンカーメンに関するものを手に入れたそうなんだ。それを別荘に見に来ないかと誘われたんだよ」
「ええっ?」
「君には詳しく話したことがなかったが、黒木猛は亡くなった豊子の兄なんだ。ツタンカーメンは、豊子が一番好きなファラオだった。彼女は、生前、熱心に研究してたんだよ。それに、黒木はきっと、ツタンカーメンに関する大発見をしたに違いないんだ」
「それって、もしかして凄いことなんじゃないですか?」
「うん、おそらくそうだ。だから、俺もそれを見届けたいというのはある」
「でも、それが罠だったりして」
「そうかもしれないけれど、一目見られたら、後はどうなってもかまわないと思っている」
「そんなのダメに決まってるじゃないですか! 先生に何かあったら、私はこの先どうやって暮らして行けばいいんですか! 隼人と二人で野宿しろってことですか!」
「そっちか!」
「違うに決まってるでしょっ! 荘子さんに私が殺されるってことですっ!」
「それはあり得るかも……」
「そうでしょ? だから、そうならないために、私と隼人もついていったらダメですか?」
「はぁ?」
「だって、隼人も見たいだろうし、先生も心配だし……。流石に三人だったら、黒木さんも手の出しようがないと思うんですよ」
「だめだ! 俺一人で行く!」
「先生は、そういうところが頑固ですよね? いいんですか? 今から荘子さんに電話しますよ?」
「分かったよ……、降参だ……。黒木は、誰を連れて来てもいいと言ってたし……」
「だったら、何も問題ないじゃないですか」
「まぁ、そうだな……」
僕がそう言うと、美豊の顔がパッと明るくなり、階段の下から二階にいる隼人に向かって、「隼人ーっ! お泊りのお出かけをするから用意してー!」と大声で声をかけた。
土曜日まで、後三日もあるのに、美豊は本当に変わったヤツだなと思った。