第七話 6
夕方、突然、携帯が鳴った。携帯の画面に出ている名前を見て、戦慄が走った。もう随分長い間、連絡を取っていない人物だった。すぐに荘子と時雄の顔が浮かんだ。無視しようかどうしようか一瞬迷ったのに、どうしてだか僕はその電話に出た。
「はい、緑川です」
「ああ、俺だ、黒木だ」
「おひさしぶりです。どうしたんですか? あなたが電話をくれるなんて」
「俺も君に電話する日が来るとは思ってなかったよ」
「そうでしょうね。私のほうから、連絡すべきでした」
「いや、何度か電話をくれたじゃないか。おそらく法事の件だったんだろうけど」
「そうです。電話に出てくださらなかったので、こちらで勝手に済ませました。申し訳ありませんでした」
「豊子と隼のことは、正直、まだ納得していない。だが、もういい。今日、電話したのは、その件じゃないんだ。君に見せたいものがある。だから、軽井沢の別荘に見に来ないか?」
「え?」
「エジプト文明に興味のある者なら、絶対に一度は見たいと思うものだ。それを俺は、幸運にも手に入れたんだよ」
「何をですか?」
「生きていたら、豊子に一番に見せたかったものだ」
「もしかして……ツタンカーメンに関するものですか?」
「そうだ。正解だ。君も興味があるだろう?」
「そうですね……」
「豊子を弔うと思って、見に来てくれ。別荘の住所は知っているだろう?」
「ええ、分かります」
「実は、今、俺はもう帰国して別荘にいる。しばらく日本にいるけれど、来るなら必ず一ヶ月以内に来てくれ。それと、一人で来るのが嫌なら、誰を連れて来てもいい」
「ありがとうございます。おそらく、今週の土曜日の午後には、お伺いできると思います。また、ご連絡します」
「そうか、待ってるよ」
あれだけ、荘子と時雄に、猛の誘いには絶対に乗るなと言われたのに、僕は迷わず猛の別荘に行こうとしていた。黒木猛は、豊子が見たかったものを本当に手に入れたに違いないと確信していたからだった。