第七話 3
「へぇー、先生のお祖父さんて、ハワード・カーターという人だったんですか?」
美豊の作った茶色いクリームシチューと黒焦げの鶏もも肉のステーキを三人で夕飯に食べながら、食卓を挟んで話していた。
「何をした人ですか?」
「ツタンカーメンの墓を探し当てた人」
「え? ツタンカーメンって、僕が今読んでる本に出てくる王様?」
隼人が言った。
「そうだよ」
「えーっ! すごーい!」
「えっ? そんなに凄い人なの?」
「うん。だって、エジプトで王様のミイラと黄金の宝をいっぱい見つけた人なんだよ! そんな人は、他にいないんだよ!」
「ふーん、良く知ってるね」
「だって、先生が教えてくれたもん」
「先生は、そんなに凄い人の孫だったんですね」
「いや、俺もまだ信じられないんだけどね。でもな、このカルトゥーシュには、確かにカーターと書かれてるんだよな」
僕はそう言いながら、首にかかっていたカルトゥーシュを取り外して、美豊と隼人に見せた。
「これさ、うちの祖母の形見なんだよ。表にヒエログリフでカーターと書かれてて、裏にはアルファベットで祖母の名前のKimikoと書かれてる」
「そうなんだ」
「先生、カーターって英語でどう書くの?」
隼人が言った。
「Carter」
「あ、ほんとだ! 一番最初がCの折りたたんだ布で、次のAがハゲワシになってる!」
「えっ? なにっ? 隼人、エジプト語が読めるの?」
「うん、ちょっとだけ。先生が教えてくれたから」
「すごっ……」
「美豊、隼人は凄いんだよ。もっと、早く気付けよな」
僕がそう言うと、隼人は笑顔になって照れた。
「でもね、先生、さっき見せてくれた時、実はちょっとびっくりしたんだけど、私もこのお守りと同じような物を持ってるの」
「え?」
「ちょっと待っててください。今、取って来るから」
美豊はそう言うと、ドタバタと階段を登って二階の自分の部屋に入り、すぐに取って返し、ドドドという音とともに最後の三段の階段を踏み外して、廊下に転がった。
僕と隼人は、慌ててキッチンを飛び出し、転がっている美豊を助け起こした。
「あいたたた……」
「おい、大丈夫か!」
「……だ、大丈夫です。ちょっとおしりが痛いだけです」
「まったく君は、本当に人騒がせな人間だな」
そう僕が言うと、美豊は気まずそうに笑った。