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第七話 2

 授業の後、また、いつものように、時雄の研究室を訪れると、時雄はいつになく神妙な顔で、「親父が大事な話があるらしいから、聞いてやってくれ」と言った。


 パソコンの画面を見ると、既に作治郎教授は待機していて、僕がパソコンの前に座った途端、「やっと来たか」と言った。


「僕に大事な話があるって、何の話でしょうか?」

「今、戸塚隊が、黒木猛によって危機的状況に陥っているのは知っているだろう?」

「ええ、時雄から聞きました。JICAにまで手を回したらしいって」

「やっぱり、私はお前にエジプトの発掘を手伝って貰いたいんだよ」

「何度も言いましたけど、僕にはそんな才能はありません……」

「いや、お前には絶対ある。お前は若い頃から勘が良かったし、研究熱心だった。だから、次々と発掘できたし、エジプト文明の解明も進んだんじゃないか」

「……」

「実は、昔、お前の父親から聞かされていたんだが、正直お前に告げるのを迷っていたんだ。彼に止められていたし、彼はあからさまに考古学を嫌っていたからね。それに、お前は理屈抜きに才能のある男だから、事実を告げることは、お前の研究や人生にとって邪魔になるんじゃないかと私も考えていたんだ。でも、私の命もそう長くはない。だから、今すぐにでも発掘調査に参加して貰いたいし、もし私に何かあった時、私の事業を継いで貰いたいんだ」

「そんな重大な責任を負う資格は、僕にはないですよ」

「資格は十分にある。あるんだよ。いいか、よく聞け。お前の祖父は、あのハワード・カーターなんだよ」

「えっ?」

「やっぱり、知らなかったんだな」

「ハワード・カーターって、あのハワード・カーターですか!?」

「そうだ。ツタンカーメンの墓を発見したハワード・カーターだよ」

「まさか、そんなことって……」

「その、まさかなんだよ。お前の父親は、ハワード・カーターとお祖母さんとの間に生まれたんだ。お前は、ハワード・カーターの才能を受け継いでいるんだよ。だから、その才能を埋もれさせてはいけない」

「で、でも……」

「エジプトで豊子さんと隼君を亡くしているから、エジプトに戻りたくないという気持ちは痛いほど分かる。でも、お前は、今もなお、エジプト考古学に携わっているじゃないか。エジプト文明に対する情熱が消えたわけじゃないだろう? だから、もう一度よく考えてみて欲しい。考えてみて、それから返事を聞かせてくれ」

「……」


 僕は、ただただ混乱の中にいた。頭が真っ白になり、何も考えられなくなった。祖母は、何故そのことを僕に教えてくれなかったのだろう? いや、でも、子供の頃に祖母が語った話の断片を繋ぎ合わせると、自分の祖父はあのハワード・カーターだったのだと今なら分かる。僕が考古学に携わるようになったのは、祖母が僕に勧めたからではない。ただ単に、祖母が読んでいた本を何気に手に取り、読んでみたら、夢中になるほど面白かったからである。それは、やはり、血のなせる業だったのかもしれない。




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