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第七話 1

 今日の授業は、太陽の船についてだった。


「まず、太陽の船とは何かについて説明しよう。太陽の船は、エジプト神話における太陽神ラーが乗る天空や冥界を航行する船のことである。太陽と名前がついているように、船は太陽を意味している。エジプト神話における老いた太陽神ラーは、地上の統治に疲れて天空へ去り、その後、ラーは小舟に乗って天空を旅し、世界に光をもたらし始めた。

 古代エジプトでは、一日を二十四時間とし、日中の十二時間は現世、夜間の十二時間は冥界を船は航行する。昼の船は『マンジェット』と呼ばれ、夜の船は『メセケテット』と言う。昼と夜の間には守護神によって守られる門があり、日没とは、西の地平に浮かぶ星、アケトを通過し、冥界ドゥアトに向かうこと。日中は空に浮かび、夜は地下を流れるナイル川を航行し、十二の門を通過する。そして、太陽神ラーは、船を襲ってくる混沌の神や巨大な蛇のアペプと戦う。アペプを倒すと夜明けを迎え、再び現世を照らす。一日における太陽神ラーの行動は、成長、衰退、死、復活、再生を意味しており、それは葬礼文書、つまり王墓の墓に描かれたピラミッドテキストや、この間の授業で説明した死者の書に象徴的に描かれている。

 そして、こちらの写真は、ラムセス六世の王墓の天井画に描かれた太陽の船である」


 僕は、スクリーンに王墓の壁画写真を投影した。相変わらず学生達は、目を輝かせた。


「その他、ヘリオポリス九柱神に数えられる天空の神のヌト、つまりオシリスとイシスの母親だが、このヌトの体の中を太陽や星が通る様子が描かれている。古代エジプト人は太陽そのものを深く信仰し、太陽神と一緒にファラオの魂も船に乗っていると考えていた。エジプトでは、遠距離移動には船が欠かせず、空の旅も船を使うと考え、王があの世に行くのも船だと考えられていた」


 そして、発掘後、復元されたクフ王の巨大な第一の太陽の船の写真を映すと歓声が上がった。


「次は、クフ王のピラミッドの南側で発掘された第一の太陽の船と第二の太陽の船について。第一の太陽の船は、約四千五百年前に埋められ、一九五四年に発見された。その後、十三年の年月をかけて復元され、一九七一年に完了した。しかし、太陽の船を展示する博物館の建設が遅れ、一般公開されたのは一九八一年である。全長四十二・三メートル、幅五・七メートル、高さ七・五メートルで、人類史上最古で最大の船である。この船は、その後一九八七年に作治郎教授によって発見される第二の太陽の船の東側で発見され、昼の船『マンジェット』であると思われる。

 作治郎教授は、第一の太陽の船がクフ王のピラミッドの南で発見されたが、東に位置がずれているのを不思議に思っていたそうで、左右対称を美しいと考える古代エジプトの発想としておかしいと感じており、船は西にもう一隻あるはずと考えていたそうだ。その読みは当たっており、一九八七年に電磁波地中レーダーで第二の太陽の船、夜の船『メセケテット』が発見する。

 クフ王のピラミッドは、クフ王の宰相の大神官ヘムオンによって建造されている。作治郎教授は、ヘムオンの計算によって、このギザの台地に三大ピラミッド、王妃達のピラミッド、スフィンクス、太陽の船が配置されていると考えている。そして、クフ王の墓はピラミッドではなく、ヘムオンによって誰にも分からないところに隠されていると考え、現在、西部墓地を調査している。作治郎教授が言うには、この土地に魅力を感じるのは、古代エジプト人、ヘムオンとの知恵比べをしているようなものだからだそうだ。

 私も、それこそが考古学の面白さだと思います」


 そう締めくくると、生徒達は拍手をした。


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