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第六話 12
黒木猛が羽田空港に降り立ったのは、夕方、六時を少し過ぎた頃だった。東京は相変わらず、人が多かった。しかし、安全な国に帰って来たという安心感もあった。黒木猛は、携帯を取り出すと、弟の拓狼に電話した。
「ああ、拓狼か?」
「うん」
「今、羽田に着いたところだ。ところで、例の物は、きちんと着いたか?」
「言われた通りに別荘に運んでおいたよ」
「そうか。手間をかけて済まなかったな」
「まぁ、何事も起こらなくて、ほっとしたけど」
「そうか。じゃ、また時間があったら、連絡してくれ。日本にいる間に、一緒に食事でもしよう」
「わかった」
黒木猛は拓狼とそうやり取りして、電話を切った。黒木猛は、万事うまくいったことに満足し、笑みを浮かべた。
しかし、次の瞬間、急に激しく咳き込んだ。彼は慌てて口を掌で覆ったが、掌に付いた痰には血が混じっていた。黒木猛は、ポケットからハンカチを取り出すと、乱暴に拭った。
第七話に続く