第六話 11
美豊は、涙を流しながら、一人で電車に乗っていた。
どうして今更ママに会いに行ったのだろう? 会いに行かなければ、子供の頃の優しかったママの記憶のままだったのに、と後悔していた。
一時間ほど電車に乗り、駅に着いて改札を出て、バスに乗り換えようとバス停に向かったら、バス停のすぐ近くで、車に乗った蘇生介が迎えに来ていた。美豊は、慌てて助手席に乗り込んだ。
「先生! どうして私が、今電車を降りたって分かったんですか!」
「こういう時のために、GPSがあるんだよ」
「あ、そっか」
後部座席を見ると、隼人が眠りこけていた。
そのまま素直に自宅に帰るのかと思ったのに、蘇生介は、わざわざ遠回りして、ファストフードのドライブスルーに寄り、温かいカフェラテを美豊に買った。
「先生、ママって最悪でした……」
「そうか……。でも、聞かなくても、その顔を見れば分かる」
「私のことを鬱陶しいから捨てたんだって言ってました」
「それ以上、言わなくていい。あのな、親だから、年上だから、自分より出来た人間のはずだと思うな。みんながみんなそうじゃないんだよ。自分のことで手一杯な人間はいっぱいいる。自分の理想を親に期待したところで、クソな親はクソのままなんだよ。そんな人間に期待するから傷つくんだ。そんな人間はこっちが憐れめばいいんだ。自分の幸せは自分で探せ。分かったか?」
「はい……、先生、ありがとうございます……」
美豊は、そう言うと、オイオイ泣き出した。
蘇生介は、「泣きたいだけ泣けばいい」と言った。