第六話 9
翌朝、また例のごとく、激辛の味噌汁と激甘の玉子焼きを三人で食べていた時、携帯に電話がかかって来た。先日、美豊の母親の調査を頼んでいた探偵事務所からだった。
話を終え、電話を切ると、美豊に言った。
「おい、一条君!」
僕がそう言うと、美豊は一瞬驚き、その後、急にケラケラ笑い出し、「隼人、聞いた? 一条君だって! 先生、美豊でいいですよ!」と言った。
「じ、じゃあ、美豊君」
そう言いなおしたのに、美豊はもっと爆笑し、隼人は「ママは女なのに、どうして君なの?」と言った。僕は、余計に口が強張った。
「だから、君なんてつけなくて呼び捨てでいいです」
「み、美豊」
「はい、なんですか?」
美豊は、まだクスクス笑っている。
「君のお母さんの行方が分かった」
「え! ほんとですか!」
「ああ。歌舞伎町にあった土地は売り払って、今は横浜にいるそうだ」
「そうだったんですか……。元気だったんですね……」
「そうだな、良かったな。住所をショートメールで携帯に送っておくよ。地図のアプリは、もうインストールしてあるだろう?」
「はい。そんなの、基本ですよ」
「偉そうに……。この間まで、携帯も持ってなかったくせに」
「先生だって、LINEを始めたのは、ついこの間だって言ってたじゃないですか? LINEだったら、登録している人の電話代がWiFiだとタダなんですよ。ケチな先生が、そんなことも知らないなんて笑っちゃうわ」
「なっ、なにーっ!」
「先生、荘子さんや時雄さんのLINEは登録してあるんですか? 私のはまだでしょ? 登録してあげます」
美豊は、僕の携帯を取り上げると、ちゃちゃっとLINE登録を済ませ、「これから私に連絡したい時は、極力LINEにしてくださいね。大学でもWiFiが使えるでしょうから。あーっ、でも先生って大学でWiFiをきちんと使えてるんですか? もしかして、電波の探し方を知らなかったりして」と、エラソーにのたまった。
僕は美豊の顔を睨みつけながらも、新人類の異常なまでの進歩の速さには、旧人類はやっぱり叶わないと思ったのだった。




