第六話 2
「今は、屋敷自体も借金の形に取られて、何にも残ってないんですけど、昔は裕福だったみたいで、パパは東京の大学に通っていたんです。その後、東京で働いていたらしいんですけど、可愛い子がいるから行こうぜってノリで、同僚に誘われてママの親がやってたスナックに行って、そこでママと知り合ったそうなんです。パパは、昔のママは本当に綺麗で可愛かったと言ってました。その後、パパは家業を継ぐために長崎に戻ったんです。でも、ママは家出同然で東京からパパを追いかけて来たらしくて、それに感動したパパが親の反対を押し切り、すぐに結婚したそうなんです」
「ふーん、普通に良い話じゃないか」
「とまぁ、ここまでは美談なんですけど、ここからがドロドロです」
美豊がそう言ったので、僕は顔をしかめた。
「その後、パパは家業だった造船所を潰し、借金を返すために、いっぱいあった土地もなくなってしまったんです。でも、お祖母ちゃんは裕福だった時から酷い人だったらしくて、結婚した当初からいつもママを苛めていたそうです。だけど、不思議だったのが、お祖母ちゃんはママだけじゃなくて、パパまで苛めてた。普通の姑って、嫁は苛めるけど息子は苛めないものでしょ?」
「まぁ、そうかも」
「だから、私はパパにどうしてお祖母ちゃんはパパを苛めるの?と訊いたんです。そしたら、自分の本当の子供じゃないからだろうと言いました。よくよく聞いてみたら、お祖母ちゃんには妹がいて、その妹がパパの本当のお母さんだったんです。本当のお母さんは結婚もせず、行きずりの外国人の男性との間にできた子供を産みました。それがパパなんだそうです。でも、その後、赤ちゃんだったパパを置いて、家を出たきり二度と戻って来なかったんです。だから、お祖母ちゃんは、パパのせいで結婚もできずに人生を棒に振ったんです」
「なんだか、そんな話を聞いていると、君はその本当のお祖母さんの血筋を受け継いでいるような気がするな」
「違いますっ! 私は隼人と離れたことなんて一日もありませんっ! 小さな子供を置いて行方不明になるなんて私には絶対できませんっ! 一緒にしないでくださいっ!」
「そ、そうだったな、すまん……」
「それで、その後、もっと酷くなって、パパはアル中になって、ママは私を置いていなくなり、お祖母ちゃんも病気で亡くなりました。屋敷も追い出されて、私は児童養護施設に預けられたんです。児童養護施設って、ご飯が三食食べられて良かったんですけど、でも、私はすごく寂しかったんです。いつも、ママに会いたいと泣いてました。そんな時に、航希に出会ったんです」
「航希って?」
「隼人のパパです。航希は自動車の整備工や夜中にコンビニのアルバイトや仕事を掛け持ちして、私と隼人を養ってくれたけど、ある日突然アパートに帰って来なくなりました。その後、離婚届けが送られてきて、仕方がないので離婚しました」
僕は、そこまで聞いて、大きくため息を吐いた。
「それで、長崎から東京へ出て来たのか」
「そうです。ママに会いたかったから」
「お母さんて、今何歳?」
「四十歳だと思います」
「よっ、四十歳っ!?」
「はい。だって、私は、ママが二十歳の時の子供だから」
「俺より随分若いじゃないか!」
「先生とママは何か関係あるんですか?」
「いや、別に関係はないが……。しかし、君もクウォーターだったんだな。実は俺もなんだよ。祖母がイギリスに留学した時、知り合った男との間にできた子供がうちの父親」
「へぇー、そうだったんですね」
「そうか、君の事情はよく分かった。母親の名前を教えてくれ。俺の知り合いの探偵に頼んで探してやるから」
「ほんとですか! お巡りさんも探偵に頼んだほうがいいよって言ってたんですよ!」
美豊はそう言って喜んだ。