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第五話 10
「私、あの時、猛さんに食ってかかったけど、全然歯が立たなかったのよ。お前のその高尚な考えが、誰にでも通用すると思うなよ、と脅されただけだった。会話が成り立たないし、はなから聞く耳がないの。昔の映画で『コレクター』っていうのがあったでしょ。あれ見た時、ぞっとしたけど、あの映画の犯人みたいだと思った。シェルターに閉じ込められた時、ああここで、誰にも見つけられずに死んじゃうのかなと本気で思ったもん」
「いや、ほんとにアイツは異常だよ。それは確かだ」
「でも、パパって凄いね。あの狂人を負かしたんだから」
「簡単だよ、アイツのウィークポイントは豊子ちゃんだから。豊子ちゃんが外にいますよと言ったら、慌てて玄関に飛び出てきたよ」
「そうだったんだ!」
「えっ、言ってなかったっけ?」
「うん……。でも、ありがとう。パパは恩人だね」
「はい、どういたしまして」
海浜公園で、仲良くコーヒーを飲みながら、荘子と時雄は昔話に耽っていた。その二人の周りを、ケムによく似たアレックスが尻尾を振りながら歩き周っていた。