第五話 8
午後十時を過ぎているのに、連絡の一つも寄こさず、妊婦が家に帰って来ないとはどういうことだ!? 時雄はそう荘子に腹を立てながら、荘子の携帯に電話をかけたが、「おかけになった電話は、電波が届かないところにあるか、電源が切られています」と音声ガイダンスが流れた。
確か、今日は豊子ちゃんと豊子ちゃんの実家に行くと言っていたはず。そう思い出した時雄は、豊子の携帯にも電話をかけてみたが、やはり同じようにかからなかった。
荘子は本当に気まぐれで、結婚する前も数日間行方不明になることがしょっちゅうだったので、今回もそんなに心配しなくてもいいのではないかと思ったが、最近の荘子は、つわりが酷く辛そうだったので心配せざるを得なかった。とは言っても、荘子の携帯が繋がらないのはさほど気にならなかったが、あの几帳面な豊子の携帯に何度かけても繋がらないのは、やはりおかしいと思った。
豊子の実家は、時雄の家から十キロほど離れたところにあった。今からそこへ向かおうと思い、愛犬のケムを留守番させようとした。しかし、ケムがどうしてだか時雄から離れたがらず、玄関のドアを開けると同時に外に飛び出し、車のドアを開けると同時に中に飛び乗った。時雄は仕方なく、ケムを助手席に乗せて、豊子の実家に向かった。