第五話 6
昨年、時雄と結婚し、先月妊娠が発覚した荘子は、つわりの重さもあって、先輩ママである豊子に、ことあるごとにマタニティライフの過ごし方の助言を求めていた。今日も、いつものように、豊子と話をするために、豊子が三歳の隼と暮らす荘子の実家を訪れていた。蘇生介は、現在エジプトで発掘調査をしており、日本にはいなかった。
「気持ち悪いからといって、何も食べないのも良くないと思う。とりあえず、自分が食べたい物でいいから食べたほうがいいよ。その後、吐いたっていいんだから。私は、吐いたらすっきりして、後で、好物のリンゴとか食べてたわ」
「いや、つわりがこんなに辛いとは思ってもみなかった」
「ほんとにねぇ。母は大変よね」
「そうだね。それはそうと、私に聞いて貰いたい話ってなに? 何か話したいことがあったんでしょ?」
「あ、うん……。でも、今、荘子は大変だからやめておくわ」
「なに水臭いことを言ってるのよ。いいから話して」
「うん……それじゃあ話すけど、蘇生介さんと兄とのことなの」
「えっ、もしかして、また離婚しろとかなんとか言って来たの?」
「それもあるんだけど……」
「ちょっと! 離婚しろとか、親だったらまだ分かるよ。でも、兄さんでしょ?」
「うん。でも、離婚よりもっと大変なことになってるのよ。戸塚隊がピンチに陥ってるの。蘇生介さんもだけど、白鳥先生に申し訳なくって」
「もしかして、お兄さんが邪魔してるの?」
「そうなの。それでね、明後日、その話をしに隼と一緒に実家に帰るんだけど、悪い予感しかしないのよ」
「あのさ、良かったら、私も一緒について行っていい?」
「ええっ? ありがたいけど、遠慮しとくよ。荘子は、今大事にしなきゃいけない時期なんだから」
「いや、だって、豊ちゃんの旦那は、私の実の兄でもあるんだし、私に全く関係ないってことでもないじゃない」
「それは、そうかもしれないけれど」
「とにかく、私にまかせなさい! 私、口じゃ誰にも負けないから! 時雄さんにもそう言われてるのよ!」
荘子がそう言うと、豊子は声を出して笑った。