第五話 4
荘子と時雄は、愛犬のアレックスを連れて、東京湾に面する海浜公園にオートキャンプに来ていた。ここは、学生時代から荘子が生前の豊子とよく釣りに訪れたところだった。他にも神奈川や千葉にも足をのばしたものだが、今日はアレックスがいるので、ドッグランがあって自宅から近いということで、この公園に落ち着いたのだった。バーベキューコンロには、あらかじめ用意してきた肉や野菜の他に、先程、釣り場で連れたメジナやクロダイが並べられ、焼けるのを待ちかねたアレックスが、コンロの周りをウロウロしていた。そんなアレックスを横目に、荘子と時雄は、話し込んでいた。
「この間、ハンバーガーを持って、美豊ちゃんに会いに行ったって言ったでしょ」
「うん」
「美豊ちゃん、十五歳で隼人君を産んで、今、二十歳なんだって。詩織より年下だって聞いて、びっくりしたわ」
「へぇー! 十五歳で子供を産んだのか! 詩織とは大違いだな」
「そうだね。詩織はいつになったら大人になるのやら。でも、一人暮らしを始めてから、だいぶ逞しくなったとは思うけど」
「可愛い子には、旅をさせなきゃいけないんだな」
「そうね。美豊ちゃん、兄貴が位牌の前で暗い顔をしてるって心配してくれてた」
「そうなんだ……」
「船の事故のことも話してあげたの。兄は、自分だけ生き残ってしまって、自分を責めてると思うと言ったら、私もそう思いますと美豊ちゃんが言ってたよ」
「そうか……」
「ねぇ、この間パパが言ってたじゃない? 猛さんに嫌がらせされてるって。どんな嫌がらせをされてるの?」
「親父がエジプト考古庁に発掘申請しているギザ周辺に、黒木が介入して邪魔しようとしてるんだよ。この間も、親父の発掘現場に偵察に来たらしくて、リモートで蘇生介と親父が話してたら、 『こんな腑抜けには何を頼んでも仕方がない、いい加減見限ったらどうですか?』と言い捨てて帰って行ったよ」
「また横取りしようとしてるの!? もう諦めたのかと思ってたのに。でも、お義父さんの邪魔をしてるってことは、すなわち兄貴の邪魔をしてるってことになるのよね」
「まぁ、そうだろうね」
「猛さんの豊ちゃんに対する執着心は、今も全然衰えてないってこと? それにしても、あの時は、本当にぞっとしたわ。まるで、ホラー映画みたいだったもの」
「そうだったな。あれは酷かったな」
荘子と時雄は、そんな話をしながら、二十二年前に起こった事件を思い出していた。
そして、時雄は、自分に近寄って尻尾を振っているアレックスに向かって、「お前のお母さんのケムが大活躍したんだよな」と言い、アレックスの頭を撫でた。