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第四話 11

 今日の夕飯は、カレーだった。副菜は、卵とブロッコリーとマカロニのサラダ。僕は、テーブルに並んだ料理を見て、ほっとした。ルーは手作りではないだろうし、カレーなら失敗のしようがないからである。サラダもそうだ。市販のマヨネーズをかけただけだから。

 しかし、やっぱり僕は甘かった。カレーは、とぐろを巻くぐらいねっとりしていたし、ブロッコリーには火が通りすぎてベチョベチョで異常に塩辛かった。それなのに、目の前の二人は、ごく普通に美味しそうに食べている。僕のほうがおかしいのだろうか?


 食後のデザートは、巨大なイチゴ大福だった。なんでも、昼に荘子が来たらしく、ハンバーガーとイチゴを置いて行ったらしい。


「あ、先生、ハンバーガーは勿論もうありませんよ。人数分しかなかったですから」

「俺が、いつハンバーガーが食べたいと言った?」

「言ってなかったでしたっけ? 気のせいかな。イチゴ大福は、隼人と一緒に私が作りました!」

「それで、なんでイチゴ大福のお供がコーヒーなんだ? ふつうは緑茶だろ」

 美豊は、オシリスのマグカップになみなみとコーヒーを淹れて、僕に差し出そうとしている。

「だって、先生、いつも食後はコーヒーを飲むじゃないですか」

「それはそうだけど、和菓子には緑茶と決まってるんだよ。それくらい常識だ」

「じゃ、淹れ直してきます」

「もういい、今日は、コーヒーでいい」


 イチゴ大福は、隼人の顔くらいの大きなもので、食べるのに非常に勇気がいったが、一口食べてみたら、普通に美味しく、びっくりした。しかし、あまりの大きさに腹がパンパンになった。


 満腹になったせいか、気付けば、いつの間にかソファーで転寝をしていた。僕にくっつくようにすぐ横で、隼人も寝ていた。美豊はキッチンにいるのか、遠くでカチャカチャと食器を洗う音がしていた。起きて、美豊を手伝おうかと思ったが、僕が起き上がれば隼人を起こしてしまう。このまま、もう少しだけ寝ようかと思った時、キッチンからガシャーンと大きな音がして、僕は飛び上がった。そして、自動的に隼人もソファーから転がり落ちた。隼人に、ごめんごめんと謝りながら、もう一度ソファーに寝かせると、キッチンに向かった。


 キッチンの床には、砕け散ったオシリスのマグカップの無残な姿があった。

 僕は、今までの自分の人生全てを、一瞬で失ってしまったかのように硬直した。

 食器棚の中にイシスのマグカップがポツンと一つだけ寂しそうに残っているのを見て、僕は無言で寝室に閉じこもった。



「先生、ごめんなさい! そんなに大事なものだったんですか! 本当に本当にごめんなさい! 先生の言うとおりに何でもしますから許してください!」


 僕の寝室のドアの前で、何度も謝る美豊の声が虚しく響いていた。




第五話に続く

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