表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/107

第四話 9

 数日が経ち、荘子は、再び実家を訪れた。蘇生介が大学の授業で家にいないことは知っていたが、イチゴと薔薇のケーキを見てあんなにはしゃいでいた美豊と隼人を、もっと喜ばせたやりたいと思ったからである。豊子はハンバーガー屋に寄って、ハンバーガーやフライドポテトと友人に貰った大量のイチゴが入った籠を抱え、昼食時に実家の扉を叩いた。案の定、二人は「うわー、ハンバーガーとイチゴだ!」と大喜びだった。


「美豊ちゃんは、今、何歳なの?」

「二十歳です」

「はっ、二十歳? マジっ?」

「はい」

「うちの娘より二歳も年下じゃないの!」

「そうなんですか?」

「うん。うわー、じゃあ、隼人君は、私の孫と言ってもいいわね。隼人君は何歳?」

「五歳だよ」

隼人が答えた。

「えっ? じゃあ、十五歳の時に産んだの!?」

「はい」

「美豊ちゃん、若いのに苦労したわね……。育てるのは大変だったでしょ」

「はい……」

「いや、あのね、うちの兄貴は偏屈だから、美豊ちゃんに迷惑をかけてるんじゃないかと心配してたの。今まで家政婦さんを雇っても、一ヶ月ともったことがないんだもの」

「そうなんですか! それで私も追い出されたんですね」

「えっ、そうなの……」

「はい、夜中に隼人と一緒に追い出されました」

「こんな若い女の子と子供を夜中に追い出すなんて、なんて酷いヤツ!」

「あっ、でも、迎えに来てくれたんですよ」

「あ、そうか、だから今ここにいるんだ。歌舞伎町に迎えに行ったのね」

 荘子は、歌舞伎町で二人が抱き合っていたと時雄が言っていたことを思い出していた。


「はい。先生、自分は酷い人間だと気が付いたと言ってました」

「そうなの……。ごめんね。夜中に追い出す前に、もっと早く気付けよって話だわね。でも、一歩前進したんじゃないかな。迎えに行ったってことは、反省したってことだから」

「でも、仕方ないです。私は家政婦のくせに何にもできないから。だから、いつも先生に叱られてばっかりなんですけど、先生、時々、物凄く暗い顔でお位牌の前に立っているんです。それを見ていたら、私も悲しくなって。なんだか、少し、先生のことが心配です」

「そうなんだ……。実はね、位牌はあるけど、お墓の中に二人の骨は入ってないのよ。ナイル川のクルーズで船同士がぶつかって二人は川に投げ出されたんだけど、とうとう遺体は見つからなかった。でも、他の人の遺体は全員見つかったの。見つからなかったのは、豊ちゃんと隼だけ。そして、この事故で生き残ったのは兄だけなの。遺体が見つかってないから、兄は豊ちゃんと隼が生きているかもしれないとどこかで思っているのかもしれない。だけど、あんな性格だから、どうして自分だけ生き残ったんだと、毎日自分を責めてるんじゃないかと思うわ」


 荘子がそう言うと、美豊も「そうなんじゃないかと私も思います」と寂しげに言った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ