第三話 11
小早川愛は、蘇生介の携帯に電話していた。
「はい、緑川です」
「先生! 一体どういうことなんですかっ!」
「なっ、なにが?」
「美豊ちゃんを追い出したんですかっ!」
「私の大事なコレクションをゴミとして捨てようとしたので首にしたんです。それの何がいけないんですか? 直接雇用契約を結んでいるんだから、お宅の会社とは関係ないですよね?」
「私は美豊ちゃんのマネージャーですっ! 途中解約したんだから、百万円を払って貰いますからねっ!」
「ああ、払ってやるよ! あのコレクションは百万以上の価値があるからな」
「最低! それでも人間なの! コレクションより生きてる人間のほうが大事でしょっ!」
「アイツのほうが売春しようとしている最低な人間だ!」
「ば、売春?」
「ああ、売春するって言ってたよ」
「それで、先生はどうして引き留めなかったんですか!」
「彼女は俺の身内でも何でもない。俺に引き留める理由はない。子供がいるのに売春だなんて、頭がおかしいだろ!」
「しようがないでしょ! 今の彼女にできることはそれしかないんだから! 最後の手段なんですよ! そんなことも分からないの!」
小早川愛がそう言うと、しばらくの間、蘇生介は沈黙した。そして、「隼人はどこにいるんだ?隼人も彼女と一緒なのか」と言った。
「隼人君は、今、私の家で寝てます。でも美豊ちゃんはいなくなりました」
「そうか……。隼人はそこにいるんだな、それを聞いて安心した……。ありがとう」
「……」
小早川愛は電話を切った後、「ありがとうって言うくらいなら、夜中に女子供を追い出さなきゃいいでしょうにっ!」と思いながら、すやすや眠る隼人の頭を優しく撫でた。