表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/107

第一話 3

 僕の専門は、エジプト文明である。よって、今日の大学での授業も、古代エジプト第十八王朝のファラオ、ツタンカーメンについてだった。若くして亡くなった悲劇の少年王として、また副葬品などがほとんど完全な形で発見された王として、エジプトのみならず世界中で、最も有名で親しまれている王である。


 僕の勤める戸塚大学文学部考古学コースに在籍している生徒は、このツタンカーメンに憧れて入学してきた者がほとんどであると言っても過言ではない。だから、僕も入学して一発目の授業は、毎年ツタンカーメンにしようと決めている。勉学とは、時には苦しみが伴うものであるとは思うが、楽しんでするからこそ、身に付くものだと思っているからだ。


 本当は、生徒達全員をギザの大エジプト博物館に連れて行き、本物を見せてやりたいと思うのだが、それでもスクリーンに映された黄金のマスクと玉座の写真に、ほとんどの生徒達は感嘆の声を上げた。



「ツタンカーメン王の墓は、一九二二年、イギリスの考古学者ハワード・カーターによって発掘され、二十世紀最大の発見と言われている。黄金の玉座には、約三千三百年前のツタンカーメン王とアンケセナーメン王妃の姿があり、太陽神アテンの光線が二人に注がれ、若い王と王妃に命を与えている場面が描かれている。この図柄は、太陽神アテンを信仰する宗教改革を進めたアクエンアテン王、つまりツタンカーメンの父であるアメンヘテプ四世の影響を受けている。この時代にしか、夫婦の愛情を表現するものは描かれておらず、それ以降は王族のプライベートな姿は描かないのが王室の決まりになった。父親のアテン神を信仰する時代の影響があった時は、ツタンカーテンと名乗っていたが、その後のアメン神信仰の再興によりツタンカーメンと名乗るようになる。エジプトのファラオの名前の一部には、時折、信仰する神の名前が入っていることがある。王は神と一体化しているという考えがエジプト文明の特徴とも言えるだろう。

 この玉座に描かれているのは、木から取れる抗酸化作用のあるミルラという樹脂と油と香水を混ぜた香油をアンケセナーメンがツタンカーメンに塗っているところ。玉座の左右の側面には、冠を被った翼を持つ蛇が、ツタンカーメン王のカルトゥーシュを掲げている。ミイラとは、ミルラから発祥したもの。英語だとマミー。どこをどう間違ったらマミーになるのか、全く理解できないけどね。えーと、ここまでで、何か質問がある人?」


 一人の男子生徒が手を挙げた。

「先生、カルトゥーシュとはなんですか?」

「ああ、そうか、君たちは入学したてだったな。カルトゥーシュとは、ヒエログリフの文字の一つで、ファラオの名前を囲む曲線のことだよ。フランス語で銃の実包と言う意味。英語だとカートリッジ。英語のほうがわかりやすいかな。形が似ているからそう呼ばれるようになったそうだ。カルトゥーシュは、取り囲むことで永遠を意味していて、ファラオの名前を囲んで保護している。要するに、昔はファラオしか使ってはいけない文字だったが、今ではみんな自分の名前を囲んでアクセサリーのお守りにしてるよ。ただし、エジプト国内でしかこのお守りは作ってはいけないんだ。だから、みんなもエジプトに行ったら作って貰えばいい。土産物屋で簡単に作ってくれる。

 白鳥作治郎名誉教授が、今もエジプトで発掘調査をしているのはみんなも知ってるよね? 発掘に参加したい人、手を挙げて」

 僕がそう言うと、約半数の生徒が手を挙げた。


「おお、頼もしい! 今年も冬休みに発掘ツアーがあるから宣伝してくれと白鳥教授が言ってたんだよ。だから、是非是非参加してください。カルトゥーシュもその時に手に入れてください。

 さっき言ったアテン神とアメン神だが、両方とも太陽神のこと。その違いについては、また後日、説明したいと思います」


 授業が終わると、生徒達はみんな笑顔で教室を出て行った。やはり、ツタンカーメン王は偉大だと再確認した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ