第三話 8
自宅に到着すると、玄関に灯りが灯っていた。
僕は、慌てて玄関扉を開け、家の中に入った。
「お帰りなさい!」
隼が飛びついて来てそう言った。僕は笑顔になった。
しかし、僕は、幻影を見ていた。その男の子は、隼ではなく隼人だった。
急に現実に引き戻され、心が沈んだ。
キッチンには、手を付けていない餃子やマーボ豆腐や酢豚などの中華料理が並んでいた。僕は、慌てて時計を見た。午後九時を少し過ぎたところだった。
「もしかして、二人ともまだ夕飯を食べていないのか?」
「はい、先生と一緒に食べようと思ってたので」
「今まで、ずっと待ってたの?」
「はい」
「そうか……。急用ができて、夕食はもう済ませたんだ。電話くらいすべきだった。本当に申し訳ない。お腹が空いたろう? 早く食べなさい」
僕は、美豊と隼人が夕飯を食べる様子を、テーブルに座って眺めていた。二人が美味しそうに食べる様子を見ていると、鬱々としていた気持ちがどこかに吹き飛んでいた。
「せっかく作ってくれたんだから、私も一緒に食べていいかな」
「もちろんです! どうぞどうぞ!」
美豊がそう言ってくれたので、僕は、彼女が作った不格好な餃子を一口食べた。しかし、死ぬほど不味かった。吐き出したい衝動に駆られたが、ぐっと堪え、笑顔を装って全部胃の中に流し込んだ。