第三話 7
人の結婚記念日を邪魔するようなことはしたくなかったのだが、予約しているレストランがフランス料理みたいなかしこまったところではなく、町中華だというので、それならいいかと思って、二人の言うとおりにした。円卓には、食べ切れないくらいの料理が並んでいだ。
荘子は、インドネシアで起こったことを僕に説明した。
「『東の国で二人の人間が争う。それを止められるのはイシスだけ』、ってなんだよ。それが俺とどう関係があるんだよ」
「だって、二十八年前に、その人、豊ちゃんに、西の国で大変な目に合うと言ってたんだよ。本当にそうなったじゃないの!」
「でも、豊子はもう亡くなってるんだ。どうやって気を付けろって言うんだよ。気を付けようがないじゃないか」
「だから、私は兄貴を心配しているの!」
「蘇生介、荘子はお前と黒木猛のことを心配してるんだよ」
「はぁ? アイツは今エジプトにいるじゃないか」
「そうなんだけど、用心するに越したことはない。アイツは信用ならない。今日だって、親父の調査を偵察しに来たのかもしれないし」
「そうかもしれないが、俺は大丈夫だって」
「でも、気を付けて欲しいのよ」
「もう、止めてくれ! 俺が、死のうが生きようがどうでもいいじゃないか!」
「そんなことないわ!」
「お願いだから、もうほっといてくれ。好きなようにさせてくれ」
「……」
「今日は、結婚記念日なのに邪魔して悪かった」
僕は、そう言い放つと席を立ち、一人、店を後にした。