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第三話 2

 目覚ましが鳴り、ベッドの中で目覚めた。キッチンから味噌汁の匂いが漂ってきている。

 まさか! もしかして、豊子が戻って来てくれたのだろうか!


 僕は、慌てて飛び起き、キッチンに走った。コンロの前に、豊子が立ち、料理している。君が亡くなったのは夢だったのか。ああ、良かった、君は生きていたんだ!

 そう思ったのに、振り返った彼女は、見知らぬ若い女性だった。

 僕は、動揺していた。


「おはようございます! お目覚めですか? 朝食は和食にしました。もしかして、洋食のほうが良かったですか?」

「き、君は一体、誰?」

「覚えてないんですか? 家政婦の一条美豊です。昨日の夜、契約書にサインしてくださったから、雇って貰えたんだと思ってました……」

「ああ、そうだった……。ごめん、忘れてたよ」

「今、玉子焼きもできたばっかりですから、冷めないうちに食べますか?」

「ああ、うん、ありがとう」

 美豊は、キッチンのテーブルに、一人分の朝食を用意した。


「君は食べないの? それと、えっと……君の息子の名前、なんだっけ?」

「隼人ですか?」

「そう、隼人君も良かったら一緒に食べよう」

 僕がそう言うと、美豊は笑顔になり、キッチンを飛び出て、パジャマのままの隼人を連れて戻って来た。

「おじちゃん、じゃなかった緑川先生がね、一緒にご飯を食べようと言ってくれたのよ。良かったねぇ」


 僕は、食器棚の中から茶碗やお椀や皿を取り出して、二人の朝食を用意してやり、彼らと向かい合って、「頂きます!」と手を合わせた。しかし、味噌汁を一口飲んだだけで、ぶっと噴き出した。


「なんだ、これは!」

「み、味噌汁です……」

「きちんと味見をしたのか?」

「え?」

「こんなに辛かったら飲めるわけがないだろう!」

「……」


 気を取り直して茶を飲み、次にねっとりした白飯を食べた後、玉子焼きを口にした。またもや、ぶっと噴き出した。

「なんで、こんなに辛いんだよ! 甘すぎるし、辛すぎるんだよ!」

「す、すみません……」


 僕は、席を立つと味噌汁の鍋に水をぶっこみ、コンロにかけた。そして、冷蔵庫から取り出した卵をボウルの中に割り入れ、ガチャガチャと乱暴にかき混ぜ、玉子焼きを作った。美豊は、「ほお!」と感心しながら、その様子を僕の隣で見守っていた。

 結局、僕が全部作った朝食を三人で食べた。美豊と隼人は、嬉しそうだった。

 僕は一体何をやっているのだろう?


 しかし、一条美豊はまだ若い。これから料理はどんどん上達するかもしれないし、洗濯や掃除は料理よりマシだろうと思ったら甘かった。美豊は、ポケットの中にティッシュを丸め込んだ隼人のズボンと僕の衣類を一緒に洗濯し、僕の服をティッシュまみれにし、その辺の物をなぎ倒しながら掃除機をかけた。しかも、美豊の後を隼人が雄叫びを上げながら、走り回っている。

 美豊は、一体何者なのか? 彼女ができることと言えば、留守番くらい……。そうか、リビングの窓に穴が開いたままだから、留守番ができればいいのか……って、そんなわけないだろう!


 僕は、怒りながら小早川愛に電話した。

「無理です! 別の家政婦を寄こしてください!」

「緑川先生、申し訳ありませんが、そんな人間はうちにはもういないんです。緑川先生が全員首になさったじゃないですか。まさか、お忘れじゃありませんよね? それに、契約書にあったと思いますが、契約期間は十三年です。途中解約なさる場合、金百万円の違約金が発生しますが、よろしいんでしょうか?」

「はぁあああっ!?」

「もう契約書にサインなさったんですよね?」

「……」

「どうなさいますか?」

「わかった! もういい!」


 僕が、怒りながら電話を切ったら、すぐ横で、というかすぐ下で、隼人が悲しそうな顔で僕を見上げていた。僕は気まずくなった。



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