第二話 10
小早川愛は、電話を切ると、
「よっしゃあああ! カモがネギしょってやって来た!」
と叫んだ。
美豊は、そんな彼女を見て目を白黒させている。
「美豊ちゃん、OKだって! 今日から仕事ができるんだよ!」
「ほんとですか! ありがとうございます! お姉さんには一生感謝します! でも、お姉さん、凄く口が上手かったですね」
「ははは、言うね、美豊ちゃん。何年私が営業をやってると思ってるのよ。これでも、社内で何回も表彰されてるんだからね」
「へぇー、すごーい! やっぱり出来る人は違いますね。私とは人間の種類が違う」
「そんなに自分を卑下しなくて大丈夫よ。美豊ちゃんは素直な良い子じゃない。それはあなたの長所だわ」
「ありがとうございます」
「それはそうと、直接雇用だと契約書はいらないかもしれないけれど、作っといてあげるね。あっちから理不尽な言い分をされた時、こっちから文句を言えるから。契約期間はどうする?」
「え? わかんないです……。長いほうがいいですけど……」
「そりゃそうだよね? 息子君は今何歳?」
「五歳です」
「じゃあ、十八歳まで後十三年か……。十三年にしとく?」
「はい! それでお願いします!」
「わかった! 書類が出来たら、それを持って、息子君とこの住所に行くんだよ!」
「わかりました。ありがとうございます」
「それとね、困ったら、いつでも私に電話しておいで」
そこまで小早川愛が言うと、美豊は目を潤ませて「本当に感謝します」と言った。
誰も知らない東京で、こんなに良い人に巡り会えるなんて思わなかった。
彼女は自分が生きてきた中で、最高に良い人で、まるで神様のようだと思った。