第二話 7
美豊は、求人情報誌を手に、公衆電話から電話を架けていた。
「お電話ありがとうございます。東京トータルケアサポートです」
電話に出たのは、若い女性だった。少しだけ、美豊は、ほっとした。
「あ、あの、求人情報誌を見て電話しています。家政婦募集とあったので、応募したいんですが……」
「ああ、そうですか! ありがとうございます! 家政婦の仕事をご希望ですね?」
「は、はい。あの、私なんかでも大丈夫でしょうか?」
「そこに書かれているように、学歴不問だし、未経験でもOKです。そういう方が沢山働かれているので大丈夫ですよ。安心してください」
「そうですか!」
「じゃあ、さっそくですが、一度会社に来て詳しい話をお聞かせください。ご都合の良い日と時間を教えてくださいますか?」
「あの、私、実は早く働きたいんです。だから、今から行ってもいいですか?」
「えっ? い、今からですか?」
「はい」
「分かりました。なんとか調整します。今からいらしてください。場所は分かりますか?」
「情報誌に地図が載ってるから、多分大丈夫です。新宿駅東口のすぐ近くですよね?」
「はい、そうです」
「今から一五分くらいで行けると思います」
「分かりました。では、お待ちしております」
「よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願い致します」
雑居ビルの七階という、ちょっとわかりにくいところだったが、なんとか十五分で辿り着け、美豊はほっとしていた。目の前に座っているさっきの電話の主、おそらく三十歳前後だろうと思われる小早川愛という担当者は、美豊に自分の名刺を渡した。美豊は無くさないように、大切に財布の中にしまった。
しかし、美豊が自分の今の状況を詳しく説明するにつれ、どんどん小早川愛の顔は曇っていった。美豊は、もしかして今回もダメなのかなとどんよりした気持ちになっていたら、小早川愛は急に大声で叫んだ。
「わかりました! じゃあ、ねじ込みましょう!」
「はぁ?」
「携帯もないし、住民票もないし、通帳もないんですよね?」
「は、はい……」
「でも、まだ小さなお子さんがいるし、長崎に帰ることもできないし、この世で頼る人もいないんでしょ?」
「はい……」
「じゃあ、絶対仕事をしなくちゃいけないってことじゃないの」
「そ、そうなんですっ!」
「住み込みがいいんでしょうけど、住み込みは身元がしっかりしている人じゃないと難しいの。しかも、小さな子供がいるのに住み込みだなんて、よほどの物好きじゃないとOKしてくれないと思う。でも、通帳がないし、もううちの会社経由じゃなくて、依頼主さんと直接雇用契約を結べばいいんじゃない?」
「はい?」
美豊は、だんだん小早川愛が何を言っているのか、訳がわからなくなっていた。
「雇い主さんから、直接現金を貰えばいいってこと」
「現金を貰うって、日雇い労働をするってことですか?」
「日雇いじゃなくて、月雇いだと思うけど。月に一回、給料を現金で払ってくれるってこと」
「へー、そんな雇われ方もあるんですね」
「まぁ、滅多にないと思うけど。でもね、今ちょうど、誰でもいいから早くよこしてくれって言ってる人がいるの。広い屋敷で一人暮らしをしていて、部屋はいっぱい余ってると思うから、住み込みも大丈夫じゃないかと思うの。ちょっと変わり者のオジサンだけど、そこに行ってみる?」
「え? どうしよう? 私、気に入って貰えますかね?」
「大丈夫よ。気に入るも気に入らないも、凄く困ってるみたいだったから、きっと雇ってくれるわよ」
「そうですか! それなら行ってみます!」
「じゃあ、電話してみるね」