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第二話 3

 我が家の庭は公園に面しているので、遊びまわる子供達の歓声がしょっちゅう聞こえてくるのはいつものことなのだが、今日は小学校が休みなのか、朝から結構騒がしい子供達の声がしていた。子供が元気なのは結構なことだし、自分も子供の頃は彼らと同じような子供だったと思うので、近隣の学校や幼稚園の子供達の歓声に、いちいち腹を立てて苦情を申し入れる大人は、常軌を逸していると思っている。すべては、赤ん坊の頃の記憶が消去されてしまうからこんなことが起こるのだ。腹が減った、オムツが濡れたと所かまわずギャーギャー喚いて大人を振り回している記憶が残っていれば、子供の声が煩いなどと苦情を言う大人は一人もいなくなるだろう。


 ということで、子供達の歓声をBGMにして、リビングでテレビのニュースを見ながら、のんびり一人で朝ご飯を食べていた。そしたら、突然、フランス窓をガシャーンと突き破って、野球のボールが飛び込んできた。僕は、そのボールを拾い、しばらくの間眺めていた。どうしたものかと思ったが、まぁ、そのうち子供達は謝りに来るだろうし、謝ったら許してやるかとのんびりかまえていた。


 しかし、その後、とんでもないことが起きた。割れたフランス窓から、茶トラの野良猫が飛び込んできたのである。しかも、野良猫だけではなく、その野良猫を追いかけて野良犬まで飛び込んできた。彼らは、「ニギァアアアアアアア」とか「ウーーッ、ワンワンワンワンワン」と叫びながら、屋敷中で追いかけっこを始めた。犬だけならまだ良かったのだろうが、猫は自由自在に空中を飛び回り、その辺のものを引き倒しまくった。


「やめろーーーーーっ!!!」

 と叫んだが、やめるわけがない。僕は、野良猫を捕まえるべく、野良犬と一緒に走り回ったが、何の意味もなかった。せめて、書斎の扉をさっさと閉めておけば良かったのに、彼らはとっとと書斎に潜り込んで、祖母と僕のコレクションを引き倒しまくった。


「お願いですから、やめてください……」

 と泣き言を言ってみたら、野良犬がこちらを振り返った。そして、僕を見てびっくりしたのか、その辺を走り回ったあげくに、リビングのフランス窓まで舞い戻って、空いている穴から飛び出て行った。少しだけ、ほっとした。


 しかし、肝心のアイツは、未だに不法滞在中で、天井近くの本棚の上で、こちらの様子を窺っている。しかし、本棚といってもうちの本棚は特注で三メートルはあるし、こちらが捕まえようと梯子を使って近付いても、ヤツはすぐにヒョイと逃げてしまうだろう。

 実は、我が家には、祖母がイギリスの骨董品店で購入し、持ち帰った猫のミイラがある。今は禁止されているが、昔は墓から発掘された古代エジプトの葬送品の売買が普通に行われていたのである。しかも猫だけでなく、子ワニや魚のミイラまであった。昔のエジプト人は、動物は人間より優れた能力を持ち、動物をミイラにすることによって、神に転化されて人間を守ると考えていたらしい。猫は高くジャンプし、魚は水中で呼吸ができ、ワニは獰猛で強い。だから、多くの動物がミイラにされているのである。

 しかし、今日、その意味を身を持って実感させられるとは思いもしなかった。確かに、猫も犬も身体能力は、人間より数倍優れている。ただ単に、人間が走って追いかけまわしても絶対に捕まえられないだろう。頭を使って何か工夫すれば別なんだろうがね。


 僕は、自暴自棄になり、もうどうにでもなれと放置することにした。今から授業に出ねばならぬし、さっさと食いかけの朝飯を食って出かけ、帰って来てから考えようと思い、書斎から出ようとしたら、目の前に荘子が立っていた。

 荘子は、ぐちゃぐちゃになった書斎を見渡し、唖然としていた。


「な、なにがあったのっ!?」

「なにがって、全部アイツのせいだよっ!」


 僕が指さした先に野良猫がおり、こっちを威嚇しながらシャーシャー言っているのを見て、荘子は声を上げて笑いまくった。やっとのことで、一息ついたかと思うと、「兄貴、もう家政婦さんに常駐して貰いなよ」と言い、僕は「そのつもりだ」と憮然として答えた。


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