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第二話 1
「おめでとうーっ!」
「幸せになれよ~! 俺にも分けてくれーっ!」
「このぉ、幸せ者め!」
僕の人生で一番幸せな日だった。
鳥たちはさえずり、風は煌めき、緑は優しく揺れた。
新郎新婦の僕と豊子は、大勢の人達から祝福を受けていた、ただ一人の人間を除いて……。
彼は、僕の胸倉を掴んだ。
「何故、豊子でなく、お前が死ななかったんだ!」
豊子の兄の黒木猛は、僕の胸倉を掴み、そう叫んだ。
僕は、また豊子の夢を見ていた。
豊子には兄と弟がおり、弟の拓狼は豊子に似て、随分穏やかな性格をしているのに、兄の猛はまるで違った。彼は、僕との結婚はおろか、交際さえも反対し、遡れば、豊子がオランダのライド大学ではなく戸塚大学を選んだことも反対だったと聞いた。
黒木猛と僕は、ことごとく馬が合わなかったが、ただ一つだけ彼の意見に僕は同調した。
何故、豊子ではなく僕が死ななかったんだろう?
窓の外を見ると、どんよりと雲が重く垂れ込めていた。
まるで、僕の心中そのものだった。