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変わらないもの(悪い意味で)

前話から少し時間が経っています。



 私とウィル様が無事に和解して、理解ある結婚生活を初めて、はや二ヵ月。

 あの夜の話し合いから一夜明けた翌日、ウィル様は私を正式に使用人達に妻として紹介してくれた。つまり私は当主公認(というのもおかしな話だけど、多分的確)の侯爵夫人、ガディエンス家の女主人となった。使用人達は驚愕を隠さなかったが、それでもかしこまりましたと礼をとってくれた、のだが。


 「……」


 今日の私の昼食は、冷めたスープと焦げたパンだった。それも、私が自分で取りに行って、「これしかない」と出されたものである。

 ウィル様が不在の間の私の待遇は、全く改善されていない。使用人達は私の事を「侯爵家に相応しくない」「ご主人様を言いくるめて居座っている悪女」などなど、何とも豊富な語彙の数々で私を貶しているようだった。

 ガディエンス侯爵家は、国王陛下の信頼も厚い由緒正しい侯爵家。仕える使用人達は、自分が侯爵家に仕えていることを誇りに思っている。それはいい。使用人の意識が高いのは、大変よいことだ。

 

 そして今の使用人達は、現在の当主であるウィル様を完璧で立派な方であるとほぼ神格化している。――それはまぁ、いい。立派な方なのは事実だもの。ウィル様が外見で苦労された分、使用人達も彼を支えるべく奮闘してきたのかもしれない。

 

 だからこそ、私のようなポッと出の伯爵家の女が妻として納まるのは納得できない。

 ――まぁ分からなくもない。

 

 ウィル様がこの女を改めて妻として迎えると言ったのは何かの間違いだ。

 ――いや、そうはならないでしょ。

 

 彼らは主人を崇拝するあまり、「欠点」となり得る私が妻として認められたことが気に食わないらしい。

 ウィル様が屋敷にいる間は完璧な使用人として振る舞い、働いてくれるけど、留守にしている間――私しかいない時はそりゃもうひどいものだ。昼食やお茶は一切用意されない。話しかけても無視、当たり前に掃除には来ない。

 専属の侍女を選ぼうにも、まず使用人達は私の招集に応じない。先日、この前少し話したきり姿を見せなかったノノをようやく見かけたけど、私に気付くと回れ右をして逃げる始末。この間、話しているところを見られてきつく叱られたのだろう。悪いことをした。

 使用人達の態度については一応ウィル様にそれとなく相談はしているけど、周囲から敬遠されてきたウィル様と、そんな彼をずっと支えてきた使用人達の間には深い信頼関係があるらしく、ウィル様は彼らが私に意地悪をするなんて信じられないという感じだった。とりあえず注意しておくと言われたが、効果は期待できそうにない。多忙なウィル様はほとんど屋敷にいないから目は届かないし、何より彼らは独自の正義を見つけてしまっているから。

 使用人達は「金に釣られて転がり込んできた私からウィル様を守る」ことが正義で、私を排除することが目的なのだ。それがウィル様の言葉よりも尊重されてしまっている。

 婚約者に逃げられ、その後も違う女性と結婚したと思ったらすぐに離縁したとなった方がウィル様の名誉に傷がつくと思うのだが、その辺は考えていないのか、それよりも私を追い出すことの方が重要なのか。おそらく後者だろう。

 だからと言って私もやられっぱなしでいるつもりはない。ご飯やお茶は遠慮なく要求するし、おかしいと思ったことは日記に書き留めておく。使用人達の顔を覚え、誰にどんな注意をしたかも添える。

 そうして気付いたのだが、使用人の全てが私を嫌悪しているわけではないようだった。あからさまに私を見下しているのは半数ほどで、他の人達は、私と関わることを避けたいようだった。

 おそらく、私を追い出したいと考えている人達は古参中の古参。執事長やメイド長など、地位ある人達が多い。それに同調しているのが、それなりに長く勤めたベテラン。勤め始めて短い使用人などは、目上に当たる先輩や上司となる古参を恐れて同調しているようだった。

 こうして、私に敵だらけの状況ができたということみたい。始めは『旦那様が歓迎していない妻を自分達の女主人とは認めない』という感じだったのだろうけど、私とウィル様は既に和解し、使用人達にもしっかり周知している。しらばっくれても誤魔化せる段階はとっくに通り過ぎているのだ。

 私がこのまま泣き寝入りするわけないと、これまでのことから分かっていそうなのになぜ繰り返すのだろう。

 今日の出来事を日記に書き終わると、ふと気になった事を思い出し、数日分を読み返す。何度も出てくる単語はわんさかあるのだが、その中の一つがどうにも気になったのだ。


 「……確認しようかな」


 私は日記帳にしっかりと鍵をかけると、更に鍵付きの引き出しにしまい込む。私が実家から持ち込んだ大事な物は、大抵この引き出しの中にしまっている。

 机の上に置かれたベルが目に入るが、手を伸ばすことはしない。本来なら鳴らせば誰かしらが駆けつけることになっているのだが、これで誰かが来た例はない。部屋を出ると申し訳なさそうにしている使用人を見かけることがあるので、ベルを聞いても行くなと命じられているのだろう。舐められたものだ。

 本当ならノノさんを私の専属侍女にしたいとかも考えてこっそり相談したのだけど、辞退されてしまった。使用人仲間から外されるのが怖いのだろう。彼女の気持ちを尊重することにしたので、私に侍女はついていない。


 「ウィル様、早く帰ってこないかなぁ」


 ベッドに寝転んで、眠りにつこうと努力する。昼食が少なくてお腹が空いてしまうから、とにかく寝ることで空腹を誤魔化すことが増えた。それはそれで「寝てばっかりのぐうたら女」と陰口を叩かれるのだが、もう好きに言ってくれという心境。

 目が覚めたら夜になっていて、ウィル様が帰ってきてたらいいなぁ。

 そんなことを考えながら、惰眠を貪るために目を閉じた。

二ヵ月もいじめられて耐えられるか?と色々考えたのですが、

ユリシスは作中で言われている通り好きにふるまっているので何とかなっています。彼女の方が立場が上であることは明確なのも武器です。

部屋に侵入されたり、水や食事を一切与えないといったことをされているわけではないので何とかなっているという所です。碌な食事が出ないのは昼食に限ったことで、朝食と夕食はウィルと一緒に食べているので、常に飢えているわけではないというのも大きいです。

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