表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/16

おや? 侯爵の様子が……!?

最悪の話し合いを終えて、翌日。

侯爵は様子がおかしいようで……!?

翌日。

 空腹のせいか、早くに目が覚めてしまった私は、黙々と身支度を整えていた。実家でもそれなりに放任されていたので、身の回りの事は大抵できる。ただ、それはあくまでも私につけられている侍女が少なすぎて手が回らず、私が自分でできればいいんじゃない? と思ってやったことだ。実家の使用人たちはみんな好きだったから、迷惑をかけたくなかった。

 ここの人達は困らせてやりたいなーしか今のところ思えないんだけどね。

 一人で怪しく笑い、ちょうど手が空いたところで、部屋の扉がドンドン叩かれた。ノックというにはうるさい。


 「ちょっと! 起きてないんですか!?」

 「何ですか?」


 迷惑そうな顔を作ってから扉を開けると、昨日私を案内した女性だった。彼女も私に負けず劣らず明らかに不満そうな表情。


 「旦那様がお呼びなんです。早くしてください」

 「旦那様が?」


 昨日の今日で何の用だろう。まさか前言を撤回するつもりか。「好きにしていいとは言ったけど予算上限がある」みたいな話か。


 「分かりました。案内してください」

 「……はぁ。こちらです」


 使用人の女性はあからさまにため息を吐き、私の先を歩いて行った。私も対抗するように大きくため息を吐き、その後を追う。途中、先を歩く彼女のかかとを踏みそうになった。危ない。昨日、侯爵様の後ろを歩いた時の感覚だったわ。あの人、本当に歩くの速かったな。

 こちらです、と案内された部屋にノックして入ると、そこは食堂だった。壁際に使用人達が並び、テーブルには豪勢な食事が並ぶ。そして主人が座るべき席には――当然のごとく侯爵様が座っていた。入室した私に気付くと、侯爵様は席を立った。


 「来てくれたか……」


 ホッとしたような呟きと緩んだ表情は、なんだか可愛く……いやいやいや。

 私が色々と葛藤して黙っていると、侯爵様はハッとしたように表情を変える。


 「い、いや。朝から呼び出してすまない。座ってくれ」

 「あ、はい」


 頷いて、対面に座る。侯爵様の前だけでなく、私が座った席の前にも食事が並べられていた。おいしそうだけど……鳴らないでね、私のお腹。


 「……」

 「……」


 黙って向かい合っていると、侯爵様がごほんと大きな咳をした。風邪かな。


 「あー……その、何だ。君と話をしておきたいことがある」

 「……はい」


 昨日の会話の焼き直しだろうか。これ以上話すことはないと思うのだが、どうなのだろう。


 「その、だな。昨日は……」

 「はい」

 「……」

 「……」


 沈黙。何なの。言いたい事があるならはっきり言ってほしい。昨日の勢いはどこに行ったのやら。早くしてと文句を言ってやろうと思ったら気付いてしまった。侯爵様の目の下。鋭い眼光であることは相変わらずだけど、昨日よりも迫力があると思ったらクマが。クマができているのである。もしやあの話し合いの後、寝てないのかな……?

 というか、時間は大丈夫なのかな? 侯爵様にはお仕事があるはず。


 「あの、侯爵様」

 「……ん? ああ、何か? あ、あなたも話があるなら、今日はあなたから……」


 昨日の私の嫌味が効いていたようだ。でもこの人、下手に出るってことができるんだな。昨日はあんなに一方的で威圧的だったのに。


 「いえ、私は大丈夫です。でも侯爵様はお仕事に行かれるでしょう? お時間大丈夫ですか?」


 私の指摘に侯爵様はハッとして目を泳がせた。図星らしい。


 「急ぎではないのなら、今すぐでなくて大丈夫ですよ。お時間がある時で構いません。私はいつでも大丈夫ですから」

 「しかし……」

 「本当に大丈夫です。ところでこれ、食べてもいいんですか?」


 私が目の前の料理を指さすと、侯爵様はうんうん頷いた。


 「も、もちろんだ。好きなだけ食べてくれ」


 やった。私は礼を言ってナイフとフォークを手に取った。

 おいしい。昨日はろくに食事をとっていないから、ますますおいしく感じる。遠慮しても仕方がないので、食べられるだけ食べさせてもらう。大食い女とか引かれても別にいいや。

 しかしこれは杞憂だった。侯爵様は、私の倍以上の量を短時間で食べるという神業を披露してくれたのだ。時間がないからだろうけど。食べるのがとても早いのに、マナーはしっかりしているし、汚いとかそんな印象は全然ない。ナイフとフォークの動きを追っていたら、なぜか食べ物が消えている、みたいな不思議な現象だった。なんかすごいものを見た気がする。

 食事が終わると、食後のお茶を飲むことなく侯爵様は慌ただしく出かけて行った。ゆっくりしてくれていいと言われたがさすがにどうかと思ったので、私も一緒に席を立ち、侯爵様の見送りをした。


 「い……行ってくる」


 律儀に挨拶する侯爵様。でも視線がどこを見たらいいのか悩むようにあちこちに逸れる。


 「行ってらっしゃいませ」


 対抗するように、私は真っすぐに侯爵様を見つめて、出勤する夫を送り出した。昨日の別れ方からは考えられないくらい普通の夫婦みたいなやり取りだったけど、この時はそんなこと全然思っていなかった。

 そして食後のお茶を飲みに食堂へ戻ると、何もかも綺麗に片づけられていた。飲みかけの紅茶も。

 はいはい、何となくわかってました。私は回れ右をして、自室へ戻ることにした。本当、先が思いやられる。

使用人達

使用人たち

で表記ゆれしてしまうのですが、変換がかかったかどうかの違いです。統一しようと修正入れていますが、ちょこちょこそのままの事があります。申し訳ありません。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ