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夫婦喧嘩

ここが山場です(笑)


自分が書きたかったところなので、割と満足してしまいました。

「……はい?」


 私は不覚にも間抜けな顔を晒してしまった。今、この人は何と言ったのか。

 私の戸惑いを置き去りに、侯爵様は眼光鋭く私を見据える。怒っているみたいだけど、声音からそうではないと伝わってくる。この顔で、色々なことで損をしてきたんじゃないだろうか。――今はそんな事、どうでもいいが。


 「あなたがご両親からどう聞いたか知らないが、今回の結婚は契約結婚だ。先の戦で私の顔は御覧の通りの有様。それだけではなく、婚約者にも逃げられた。しかし他国にも名が知れてしまった私がいつまでも独り身では外聞が悪いし、逆に他国の縁談で付け入る機会を与えるわけにもいかない。――と国のお偉方が考え、早急に埋める必要があった穴を金で応急処置したということだ。私が望んだことではない」

 「……」

 「だから私があなたを愛することもない。侯爵家の人間であることを自覚し、節度を以て行動してくれれば、後は好きに過ごしてくれて構わない」

 「……」

 「私が言いたい事は以上だ。今日はもう遅い。早く休むといい」


 侯爵様が席を立とうとする。私は咄嗟にテーブルを叩いた。思ったよりも大きい音が出た。痛い。でも侯爵様が動き止めてくれたから結果オーライ。


 「座ってください。私も話があると言いましたよね?」

 「……」


 侯爵様はちょっと不可解そうな顔で、座りなおした。今の話を聞いて、まだ何か言いたい事があるのかと言わんばかりの顔。迫力がある顔だけど、今は恐怖どころか怒りしか湧かない。そう、私は怒っている。


 「侯爵様は、契約結婚だと仰いましたね。――そんなこと、分かっているに決まっているでしょう。私とあなたはこれまで会ったこともなくて、家格も釣り合ってないんだもの。恋愛結婚でもなければそれ以外ないじゃない」


 そもそも貴族の結婚は政略的なものがほとんどだ。しょぼい伯爵家の娘だってそれくらい知っている。


 「それで、何? 愛するつもりはない、でしたか。それってどういう意味ですか。自分は契約結婚だと割り切っているからいいけど、私の方は旦那様に愛されて幸せな結婚生活を送ると信じてやってくる、お花畑なご令嬢だと思われていたという事ですか? 会った事もない侯爵様を相手に? 私の事を馬鹿にしているんですか」

 「……っ」


 言いたい事は分かるけど、実際に口に出してみるとひどいな。

 侯爵様もそう思ったらしい。顔を赤くしている。自分の発言に羞恥を覚えているようだ。ちょっと可愛いとか思っていない。


 「私は、契約や政略による結婚だとしても、たとえ愛がなくても助け合っていく事はできると思っていました。お互いをパートナーとして自分の役割をきちんと果たし、よい関係を築いていけることを確認したかった。ですが、侯爵様は違ったのですね」


 私は立ち上がり、侯爵様を一瞥した。巌とばかりに大きい侯爵様だけど、座っていればさすがに立っている私の方が大きい。呆然とこちらを見上げるその顔は、私の目にはどうしてだか情けなく映った。手負いの狼だったはずが、今は叱られた子犬のよう。可愛いとか思ってないったら。


 「仰るように、好きにさせていただきます。夜分遅くに申し訳ありませんでした。おやすみなさい」


 挨拶をすると、私はさっさと侯爵様の部屋を後にした。これ以上ここにいたくない。

 侯爵様の部屋から私の部屋まで、迷いに迷いながらどうにか辿り着くと、もう何もする気がなくなってしまった。適当に着替えて、ベッドにもぐりこむ。途中、お腹の鳴る音がしたけど無視した。

 頭の中を、侯爵様の言葉がぐるぐると回る。


『あなたを愛するつもりはない』

『私が望んだことではない』


 全部、全部分かっている事だった。それでも、面と向かって言われると中々にショックだった。

 自分が誰かに選ばれることがないなんて事、分かっている。それでも、それでも……。


 「ばーか」


 ベッドの中の呟きは、誰に聞かれることもなく暗闇に消えていく。目を閉じるけど、眠気は訪れない。代わりに沸いたのはちょっとの反省。


(……いや、ダメよ。確かにボコボコに言われて腹立つ要素しかなかったけど、あれは侯爵様なりの誠意だったのよ。ただ無視することだってできたのに、自分の考えをきちんと伝えないといけないと思っての事だったんだから)


 早いうちにきちんと自分の思いを伝えておこうと考えたのは、私も侯爵様も一緒だったということだ。ただその内容が、それぞれの意にそぐわなかったというだけ。


(こればっかりはどうしようもない。仕方がないのよ。侯爵様が言う通り、私は好きにさせてもらおう。……使用人を総入れ替えしたいくらいだけど、さすがにそれは越権かしら)


 屋敷の人事は家を預かる妻、女主人の仕事のはずだが、そういった働きは期待されていないようだから難しそうだ。


(そもそも私が使用人達に舐められているのは、侯爵様が私の事を認めていないからよね。主人の態度に倣うのは当たり前だもの。そう考えると、入れ替えるべきなのは使用人じゃなくて侯爵様の方……)


 そこまで考えて、私は思考を放棄した。考えても仕方がないことで睡眠時間を削ってもしょうがない。イライラもしてきてダメだわ。


 「寝ます。おやすみ」


 誰に対する挨拶でもなく、自己満足の宣言をして、私は今度こそ眠りについた。

 こうして、私の結婚一日目はようやく終わったのであった。



話し合いというよりお互いの主張を伝えただけで終わってしまいました。

でもこういうことってままありますよね。

終わった後「結局何も解決してなくない?」みたいになること。

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