表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/16

お客様のおもてなし

前回の話の翌々日となります。

空白の一日に何をしていたかは後ほど分かればいいなぁ。

 

 翌々日。

 ウィル様が仕事で出かける前に、使用人達を招集してもらった。私が言っても集まらないからね。全員が集まった事を確認すると、ウィル様が私に場を譲った。礼を言って、一歩前へ出る。


 「三日後、私の友人を屋敷へ招くことになりました。とても大切なお客様です。くれぐれも失礼のないよう、準備に努めてください」


 使用人達は無言で腰を折り、了承の礼を取ったが、さてどうなることやら。

 

 ……当たり前に何もしてくれなかった。応接室を隅々掃除したり、飾る花を選んだり、当日のお茶やお菓子を用意するのは、全て私だった。使用人達には再三注意したけど、無視されるか「忙しいから無理」と断られる。大切なお客様だと説明したにも関わらず、そのおもてなしよりも大切な事って何なのだろう。見ても、いつも通りの業務をこなした後、雑談をしているようにしか見えなかった。はいはい、知ってました。

 結局、三日の間に一人で考え一人で準備をした。今度のお客様は、本当に失礼があってはならないのだ。だから念入りに準備したかったし、第三者目線での評価が欲しかったのに全て私のセンスになってしまった。

 不安はあるが、出来るだけの事はした。後は失礼がないようにお迎えできれば及第点だろう。


(……無理かな……)


 使用人達がウィル様不在の当日、私の指示に従ってくれればいいけど期待しないでおこう。それよりも気になるのは、やっぱり使用人達が何やらこそこそやっていることだ。ウィル様と話し合ったその後も、彼らが何やら企んでいる様子が見られた。特に執事長やメイド長などの上級使用人達が、あからさまに何か隠している。確かに後ろ暗い事というより、嬉しそう、楽しそうに見えなくもないけど……私に気付くとすぐに散ってしまう。

 当日を台無しにするような作戦を立てているとかじゃないといいんだけど、今の私には祈るしかない。

 こうして不安を隠せないまま、当日を迎えることになるのだった。




 そして、遂に訪れた当日。

 私は朝から大忙しだった。ウィル様と朝食をとり、彼が出かけてからすぐさま準備に取り掛かったけど、まぁ誰も手伝わない。分かってはいたけど、人が忙しく動いている脇で、くすくす笑いやだるそうに立ち話しているのを見ると、腹しか立たない。

 もう使用人を頼る事は諦めて、何なら無視して一人で準備を進めていると、あっという間に来訪の時間になってしまった。何とか目途はついたので、玄関へお出迎えに向かう。


 「ようこそいらっしゃいました」

 

 時間ぴったりに現れた来客は、私にとっても大切な御方。

 整った顔立ちだが、どこか軽薄そうな印象を受ける。女慣れしてそうだな、と言えばよいのか。それでいてすらりと背も高く、そして明らかに貴族と分かる佇まい。うん、客観的に見て素敵な殿方だ。これでは女の方が放っておかないだろう。


 「今日はお招きありがとう、ユリシス?」

 「こちらこそ、ご足労いただき感謝いたします。……エディ」


 ウインクまでしてくれちゃったエディ様に、苦笑を返す。

 エディ様はがらんとした玄関ホールを見渡して、最後に私を見て笑った。


 「すっきりしてるね」

 「……申し訳ありません。お迎えの準備が十分ではなくて」


 大切な来客だと伝えてあるのから、使用人が揃って出迎えるのが当たり前のはずなのに、今ここにいるのは私一人だけ。本当に申し訳ない。


 「いいよいいよ。一回来てみたかったのも、君に会いたかったのも本当だからね」

 「……すみません、こちらへどうぞ」


 私はエディ様を先導する形で応接室へ向かう。途中、使用人の一人にも会わない。みんな隠れているのだろう。お客様が来て隠れる使用人。確かに厄介なお客様の場合は、まだ経験の浅い使用人を隠れるよう指示することもあるけど。今回は大切な以下略。

 応接室にお通ししても、もちろん誰も来ない。一応、お客様がいらしたらお茶を持ってきてと、ほぼ出すだけまで準備しておいたのに、誰も持ってこない。


 「……少し、失礼します」

 「大変だねぇ」


 退出の意図を察してくれたエディ様に送り出され、私は急いで厨房へ向かう。案の定、ティーワゴンがぽつりと取り残されている。急いでお湯を沸かし、その間に用意した茶葉やお茶菓子に異変がないか確認する。やっぱりこのお茶菓子おいしいわ。もう一個つまんじゃおう。

 お茶の支度が終わると、手ずからティーワゴンを押して応接室へ戻る。


 「お待たせしました」

 「おかえり」


 エディ様は不満そうな様子を一つも見せずに出迎えてくれた。申し訳ないやら、情けないやら。

 とりあえずお茶の用意をする。万が一に備えて練習しておいてよかったわよ。


 「うん、美味い。ユリシスはお茶を淹れるのが上手なんだな」

 「恐れ入ります」


 この方ならもっとおいしい紅茶を飲んでいるだろうに、お世辞が上手だわ。それにお話も退屈しないし、聞くのもお上手。本当にとんでもない方だ。


 「お菓子と言えば、僕が持ってきたやつ、ぜひ食べてね。超おすすめ」

 「はい、楽しみです」


 本当に楽しみだ。大変期待している。エディ様の差し入れ、明らかにお高そうでおいしそうだった。

 



 「……おや、もうこんな時間か。そろそろお暇しようかな」

 「あら、本当ですね。名残惜しいですが」


 エディ様が立ち上がり、私もお見送りに続く。


 「エディ様、今日は本当にありがとうございました。とても楽しい時間を過ごさせていただきました」

 

 お世辞ではない、本当だった。ウィル様以外の人とこんなに話したのは久しぶりで、本当に楽しいと思う時間を過ごせた。正直、最初は気まずく居た堪れない時間を過ごすことになるのではと思っていたのだけど、全くの杞憂だった。


 「こちらこそ。無理を言ったようなものだし――」


 他愛無い話をしながら二人で歩き、玄関ホールまでやってきた。後はエディ様がお帰りになるだけだった時に、それは起こった。


 「――あなたたち、何をしているのかしら?」


 聞いた事のない女性の声が、玄関ホールに響き渡ったのである。思わず振り返ると、一人の女性が腕組みをして立っていた。その後ろには、使用人達がずらりと控えている。

 

 いや、誰。

その後の展開のために、ちょっと無茶な表現をしたかもしれません、読みにくかったら申し訳ありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ