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明日、嫁ぐそうです


書きたいところを書くために書いた話で、だらだら続けたくなかったので駆け足感があるかもです。

ちょこちょこ書き足しているので整合が怪しところもあるかもですが、「いずれ直せよ」という気持ちで見守って下さると助かります。



 「ユリシス、お前には『傷侯爵』の下へ嫁いでもらう」


 父であるメルデン伯爵に宣告された時、私の顔は死んでいた。

 このシュートリエン王国で傷侯爵といえば――ウィルフレッド・ガディエンス侯爵のことに他ならない。隣国との戦争を終結へと導いた英雄だ。彼は陛下からの出兵要請に真っ先に応えると、自ら兵を率いて出兵した。そして若くして凄まじい戦果を挙げた、わが国の英雄である。彼がいなければ、戦争はあと十年は続いていたとまで言われている。

 その英雄の伴侶の話が私のような――十八にもなって婚約者もいない、お家柄もお世辞にも名家とは言えない、どこにでもいるどころかどちらかというと売れ残りの私を妻に迎えようというのか。


 「娘が生まれた時にはどうしようかと思ったが……お前のような奴にも使い道があったという事だ! いやよかったよ!」


 がははと品なく笑う父。もう何度も言われたことだ、いちいち傷つかない。ただうんざりするだけ。

 私――ユリシス・メルデンには五つ下の弟がいる。国の法律では、家の跡取りは男児しか認められていない。そのため両親は女児――私が生まれた時、心底がっかりしたという。

 貴族の家に生まれた女児は、政略結婚の駒として育てる。大抵の貴族はそう考えて、娘を立派な淑女に育てるものだと思うが……私の両親は、「女なんていらなかった」と本人に正面切って言う人達だった。その為跡取りとなる弟が生まれた時には大層喜ぶと同時に、私への興味関心の全てを失った。年頃の貴族令嬢であるというのに婚約者がいないのも、この人達が私の将来に興味がないからである。


 「私、結婚はしないものだと思っていました」


 正直に言うと、父は私をぎろりと睨んだ。


 「馬鹿を言うな。いつまでもただ飯を食って養ってもらえると思うなよ。さっさと出ていけばいいものを、お前ときたら結婚相手を探しもしないで……」


 この人は、私が自分で結婚相手を見つけて、家を出ていくのを待っていたらしい。学校にも行かせず、変な噂が立って家名に傷がついたら堪らないと外出に制限をかけていたくせに、どういう思考回路をしているのか本当に謎だ。そもそもメルデン家は富も権力も大したことない。私は学校に行けないから自分で勉強していたけど、メルデン家の名前なんて貴族名鑑以外で見かけたことがない。王宮に勤めているわけでもなく、事業に成功したわけでもない。むしろ事業に失敗して、借金があるくらいだ。

 何を言ってもしょうがないので、全ての言葉を呑み込んだ。この人に何を言ったところで、「うるさい」の一言で終わるのだ。


 「……それに結納金がいらないどころか向こうが金を出すって話だ! こんな素晴らしい結婚相手を見つけてくれた親に感謝するんだな!」


 いけない、話を聞いていなかった。でも聞いていなくてよかった。むしろ全部聞かなきゃよかった。中途半端に聞いてしまった。とにかく恩着せがましく結婚相手を見つけてきてやったということを言ってるようだが、要は、私は傷侯爵の花嫁として金で売られたという事らしい。借金の返済の目途がついて、さぞ喜んだことだろう。


 (……傷侯爵)


 私の結婚相手になったという英雄。英雄であるはずの彼につけられたその異名は、当然よい意味ではない。

 侯爵は先の戦争で大きな戦果を挙げて生還したものの、顔に傷を負い、見るに堪えない醜い顔になったとの噂である。

 そしてもう一つ。隣国との戦争は数年に及び、その間国を空けていた侯爵だが、彼には婚約者がいた。当然だ。由緒正しい侯爵家の嫡男なのだから。彼が遠征中に当主である御父上が亡くなったので、戦時中に彼は事実上の侯爵となっている。帰還次第正式に爵位を受け継ぎ、婚約者と結婚すれば侯爵家は安泰……となるはずだったが、そうはならなかった。侯爵が留守の間に、婚約者は浮気していたのだ。当然に婚約は破棄され、侯爵には「婚約者を寝取られた」という不名誉の傷がついた。

 戦争でついた醜い傷と、婚約者に捨てられたという経歴の傷。戦争から無事に帰ってきたものの消せない傷を二つも負ったという皮肉から、英雄は「傷侯爵」と呼ばれるようになった。当然、彼が多大な褒章を受けたことを妬む人達が勝手に呼び始めたものであり、面と向かって口にできる猛者はいないだろう。

 噂によれば、侯爵は熊のような大男らしい。眼光鋭く、目が合ったら射殺されてしまうとか……目の前に立てば凄まじい威圧感に息をすることもできず窒息するとか……とにかく『侯爵は怖い』という噂に事欠かないお人。傷侯爵と呼ばれるようになってから、彼はあらゆる人を敬遠し、仕事に邁進し続けているという。そんな侯爵が結婚相手を探しているという噂は私も聞いた事がある。まるで賞金のように嫁の実家にお金が支払われるとは知らなかったが……あまりに見つからないから賞金を設けたのだろうか。それで釣れたのがうちの父ということ。うーん、馬鹿が釣れたとか思われてないかなぁ。


 「――さっそく、明日には侯爵家へ向かうように!」

 「えっ、明日?」


 思わず聞き返してしまった。


 「当然だ! さっさと支度しろ! 置いていった物はすべて処分するから、そのつもりでな」


 唾を飛ばしながら話す父に私は形だけの礼をして、部屋へ戻った。捨てられて困るものだけを持って行けと言うことのようだから、急いで荷造りしないといけない。

 部屋へ戻る途中、弟を見かけた。母と並んでソファに座り、お茶やお菓子の世話をされていた。母が差し出すお菓子を頬張り、お茶の注がれたカップを差し出す。既に十三歳なのだからそんなこと必要ないはずなのだが、我が家では当たり前の光景だ。弟も普通に受け入れている。両親が私に関心がないから、弟も私に関心がない。最後に会話をしたのがいつなのかも分からないくらい。

 このまま荷造りをして明日を迎えたら、私がこの家に戻ることはきっとない。今声をかけなければ、二度と会わないことだってあるだろう。


 「……」


 私は素通りして部屋へ向かう事にした。話す事が見つからない、そんな理由で。

 部屋へ着くと、早速荷造りに取り掛かる。私物はあまり多くないから、徹夜するつもりでやれば終わるだろう。というか、終わってほしい。誰かが手伝いに来るわけでもないから、手際よくやらなければ。

 とりあえずとクローゼットに手をかけて、ふと振り返る。

 ベッドに机、椅子。ドレッサーにクローゼット。本棚。あまり広いと感じた事はないけど、不当に狭いというわけでもない私の部屋。この家の中で、この部屋だけが私の居場所だった。何かに落胆したり気を遣ったりしなくていい、息のしやすい場所。

 この家に――家族の中に、私の居場所はなかった。そこから離れたこの部屋だけが、私が安心できる場所だったのだ。

 

(侯爵家では、そうではなくなるのかな。……そうだといいけどなぁ)

 

 契約結婚のようなものだから、期待するだけ無駄かもしれないが。それでも期待してしまうのが、人間というやつだろう。

 そんなことをつらつら考えて、後は黙々と荷造りをして。

 私のメルデン家での最後の一日は、そんな風にして終わったのだった。

弟くんは大事にされすぎて、何もできない子になっています。

姉に辛く当たることはありませんが、そもそも自分から話しかけません。

メルデン家の明日は明るくなさそうです。

ちなみにメルデンとメンデルでよく間違えていたので、誤字が残っていたら申し訳ないです。

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