女もどき
「ただいま」
「お帰りなさいませ、旦那様」
今日は出張を終えた2ヶ月ぶりのこの家の当主である咲魅 逸平の帰宅であった。
私は旦那様が帰ってくるという時間に合わせ、玄関の前で正座をして待機していた。そして玄関が開く音と共にすぐに頭を下げて旦那様を出迎える。
旦那様はどこか緩い優しいしお方で、この街でも様々な人々から信頼されている。なんでも昔この街を襲った"厄災"から人々を守ったと言う話を聞いたことがある。
見た目だけではそんなすごい人には全く見えない。
「出迎えご苦労。ちょうどいい、酒香に紹介したい男がいるのだ」
そう言うと、私は頭を上げ、旦那様の方を見ると、丁度その真後ろに誰かが立っていた。
私は旦那様の紹介したい人が誰か検討がつかず、客人の話も聞いていなかった為、少しだけ緊張する。
そして旦那様が家の中に入り、右にズレると、その客人の姿が現れた。
「この娘が私の言っていた酒香だ」
そうして現れた人は、とても美しかった。
とても人の肌とは思えないほど白く綺麗な肌に、風になびくほど柔らかく綺麗な銀色の髪の毛。
何より美しかったのはその吸い込まれてしまいそうなほど、どんな宝石よりも美しく輝いて見える夕焼け色の瞳。
まるで同じ人とは思えない姿に、私はあっけにとられてしまった。
「貴女が酒香さんですか?」
そう訪ねてくる客人。
私はその人の美しい姿に言葉を失ってしまった。
いや、見惚れていた。
「酒香?」
「!はい、私が酒香です」
私は旦那様の声で現実に戻り、すぐに頭を下げて挨拶する。
「顔を上げてください」
耳を通り抜けるような声に、私は言われた通り顔を上げる。
───綺麗な人だ
私の彼への第一印象はそれだった。
動作が、姿が、声が、全てが美しく、綺麗に見えた。
「私の名前は童子、星喰童子と申します」
足を折りたたみ、正座をしている私に目線を合わせて微笑む童子。
彼の瞳は近くで見ると、より一層綺麗に見えた。
凛々しい顔つきに、長いまつ毛。
私はその美しさに、嫉妬すらしてしまった。
きっとこれだけ綺麗だったら、私も外の人達から「忌子」などと呼ばれずに生きていけたのだろうか?
「これからこの家でお世話になるから、よろしくね」
その笑顔はどこまでも優しく、声は風鈴の音の様に綺麗だった。
───ガアアァンッ!
ビクリと体が跳ねた。
音のした方を見てみれば、兵八さんが玄関を思いっきりゲタで蹴り飛ばしていた。
「おい、この白い他所者が親父の言ってた奴か」
「おかえり兵八、身長がまた伸びたな」
「質問に答えろ」
荒々しい口調に、見るからに不機嫌な兵八などまるで気にせず、逸平は兵八の頭を撫でながら、自身と近い身長にまで成長した自分の息子の成長にしみじみとしながら、どこまでも優しく接していた。
「そうだよ」
「ふんっ、女みてぇな面と臭いさせやがって、気持ちわりぃ」
そう言って外に出ていこうとする兵八を、逸平は止めることなく見送った。
「ご飯はどうするー?」
「要らん。豚の餌なぞその女もどきに食わせとけ」
そう言ってどこかに行ってしまった兵八。
その態度はどこまでも悪く、失礼極まりない態度であったが、当の本人の童子は気にすることなく、逸平も気にもとめず、ただただ酒香だけが不快な気持ちとなっていた。