ご馳走
「ちょっと、ご飯まだ出来ないの」
「す、すみません」
私は屋敷の台所でいそいそと朝の食事を用意していると、奥の部屋から現れた奥様に怒鳴られる。
私の朝は早い。
この大きな屋敷を朝一番に一人で掃除して、朝ごはんを作り、布団や洗濯物を干して、全ての家事を私一人で行う。
少しでも遅いと、こうやって奥様に怒鳴られる。
ここはこの街でも有名な名家の家で、私がまだ物心着く前のずっと昔にこの家に預けられた。
それからはこの家で家政婦としてずっと働いている。
「ねぇー、ご飯まだー?」
続けて顔を出す女性。
彼女はこの名家の娘、咲魅 朱里。
奥様は咲魅 春菜。
私は2人に急かされながらも、できた料理を卓の上に乗せ、食事を用意していく。
用意された料理の量は4.5人分。私の食事はこの人たちの半分以下。おかずはきゅうりの漬物が2切れと奥様たちの食べ残し。
当主である旦那様は今は出張で留守にいている。
でも、この家にはもう一人、奥様たちと私以外に住んでいる人がいる。
「はん、よくそんな豚の餌なんぞ食えるな」
「こら!兵八、またアンタ私の財布から金盗んだね!?」
「るっせぇババア!だったらまともな飯用意しろや!」
そう言って息子である咲魅 兵八は玄関からとっとと出ていった。
彼は凶悪な顔つきに、顔や身体にはいくつもの傷跡があり、周りからはヤクザや人殺しなどと、物騒な噂が耐えず、その性格も気性が荒く、気に入らない事があれば直ぐに私を殴ったり蹴ったりしてくる。
昔は私と一緒に遊んでくれたり、優しかったのに、今ではそれが見る影もなかった。
そうして2人は食事を終え、私は兵八さんが食べなかった分の食事を食べて、食器を洗い、朱里様を見送ったあと、私は再び家事に戻る。
普通の生活がしてみたい。
普通の学校に通って、友達を作って、年相応の遊びをしたい。
私はいつもそんな理想を抱きながら生活していた。
この家に私と言う個人を見てくれる人はいない。普通の人と違い、私の瞳は紅く、髪は白い。
その姿に、周りの人達からは気味悪がられ、買い出しに行く際に石を投げられることもあった。
でも、この生活が死ぬほど嫌という訳では無い。
奥様や朱里様はなんだかんだ言って私にお菓子や、旅行等も一緒に連れてってくれる。
家政婦として働いた分のお金(少しだけど)もくれるし、時間が余れば好きに行動していいと言われている。
でも、何故か私一人での外出だけは許してくれない。
旅行する時も、仮面と厚着で姿はほとんど見せてはならないという条件付き。
それさえ目をつぶれば、生活には不自由はない。
だけど、兵八さんだけは、何故か私にいつも意地悪をする。
訳を聞いても「お前が嫌いだからだ」の一点張り。
私はそうして屋敷の掃除を終わらせ、私の部屋である物置の隅っこに戻る。
「学校、行きたいな」
私は、倉庫で埃のかぶった本を読みながら、叶いもしない夢を抱く。
私の部屋のボロボロの布団の横には、昔まだ優しかった兵八さんがくれた髪飾り。
私の白い髪と紅い瞳を綺麗と言ってくれた、あの頃の兵八さんがくれた、赤い髪飾り。
「··········兵八さんなんて、嫌い」
でも、何故か私はこの髪飾りだけはずっと捨てられずにいた。




