番外編『足りないもの』
たりないものがあるのにそれが何かわからないというのは、どうにも気持ちの悪いものだ。
私はここ数日、その気持ち悪さに悩まされていた。
「どうした、セシリア? 何か悩み事でも?」
「オズ様……。あぁ、いえ、悩み事、というほどのことではないのですが……少し……気持ち悪くて」
私の返答に、オズ様が目をカッと見開いて私の両肩を掴み迫った。
「具合が悪い、と? いつからだ? 吐き気だけか? 頭痛や風邪症状は──」
「お、オズ様。そういうのじゃないから大丈夫ですっ」
表情がくるくるめぐるタイプではないけれど、結婚してからいろんな表情を見せてくれるようになったオズ様だが、過保護なママさんタイプなのは相変わらず、いや、レベルが上がったように思う。
「違う、のか?」
「えぇ──これについて、何かが足りないような気がして、すこし胸のあたりがもやもやとしていまして……」
そう言って私が見上げたのは、ルヴィ王女設立の私達のファンクラブが作ってくれた、私たち二人の銅像。
王家の総力を挙げて作り上げたというファンクラブの集大成は、教会の裏庭でもはや教会、いやトレンシスの町のシンボルと化している。
「これが、何か?」
「何か、何かが足りないんです。でもそれが何かわからなくて、もやもやと……」
何だろう、顔も身体も私たち二人そっくりだし、指輪だってちゃんと作られている。
足りない装飾品はないと思うのだけれど……。
「おーいオズー!! セシリア―!!」
「カンタロウ!! まる子!!」
上空から声がして、ひらりと舞い降りたのは、カラスの姿をしたグリフォンのカンタロウと、猫の姿をしたケットシーのまる子だ。
「もう!! 探したわよ!! 教会に行くなら行くって言って出ていきなさいよね!! あちこち無駄に飛び回ったじゃないっ」
「まぁまぁ。良い運動になったじゃないか」
「あんたは私の背中に載ってただけでしょーよ!! それよりセシリア!! もう昼よ!! ご飯!! ご飯まだ!?」
ギャーギャーと賑やかないつも通りの二人に、私はふふ、と頬をほころばせた。
「ぁ……そうか……」
わかったかもしれない。
うんそうだ。
きっとそれ。
足りなかったもの。
「まる子とカンタロウだ……」
「え?」
しっくりと胸に入ってきたそれを噛み締めるように、私はオズ様を見て、「足りないもの!! まる子と、カンタロウです!!」と声を上げた。
私が生きていて幸せだと思えたのは、オズ様と、そしてまる子やカンタロウがいたからだ。
私の大切な家族になってくれたのは、オズ様だけじゃない。
まる子とカンタロウも、私の家族だ。
何も言わずとも、その私の様子に思いを感じ取ってくれたのだろう、オズ様が優しく笑った。
「そうだな。まる子とカンタロウか……。今度、ルヴィ王女に言ってみよう。きっと喜んで作ってくれるだろう」
「はいっ!!」
あぁ、なんだか胸のモヤモヤがとれてしまったようだ。
スッキリとして、気持ちがいい。
「もぉーーっ!! いいからご飯ーーーーっ!!」
微笑み合う私達を前に、腹をすかせたカンタロウの声が響いた。
END
皆様お久しぶりです!!
ちょっと筆休めに番外編書いてみましたので、良かったら読んでみてくださいませ♪
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景華




