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【完結】来世に期待します〜出涸らし令嬢と呼ばれた私が悪い魔法使いに名を与えられ溺愛されるまで〜  作者: 景華
第二章

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セシリア

「ん……」


 白い光が瞼の隙間に差し込み、私はゆっくりと目を開けた。


「セシリア」

 視界いっぱいに映るのは、さっきまで私を抱きしめ続けていてくれたオズ様の、安心したような美しいお顔。

 その両手は私の左手を強く握りしめていて、思わず顔に熱が集中していく。


「よかった。目が覚めたのね」

 枕元ではカンタロウの両の眼が優しく私を見下ろしていた。


「心配かけてごめんな──」

「ちょぉーっとぉ? 謝るの禁止って、私、あんたがここにきてすぐに行ったわよね?」

「あ。えっと、うん」

「じゃぁ何て言うの? こんな時」


 謝るではない、言葉……。


「……心配してくれて、ありがとう。カンタロウ」

 私の感謝の言葉にカンタロウが柔らかく笑った。


「あたりまえでしょ。ま、どういたしまして」

 言葉はつん、としながらも優しさが伝わってくる。

「ふふ。まる子は──」

 言いかけてお腹の上の重みに気づいた私が、ゆっくりと身体を起こし自身の腹部を見下ろすと、ぐるりと丸まったまる子が私の上ですやすやと眠っていた。


「人一人を誰かの意識へ送るのは膨大な魔力を使う。まる子も疲れたんだろう。少しの間、寝かせてやってくれ」


 そうよね。

 まる子がオズ様を私の意識の中に送ってくれたから、私はあのまま悲しみに捕らわれることなく一人ぼっちの暗闇から解放された。


 怖くなかった。

 苦しくなかった。

 暖かかった。


「……ありがとう、まる子」

 私はそう言うと、まる子の白く美しい毛をそっとひと撫でして微笑んだ。


「オズー……って。セシリアちゃん起きたの!? よかったぁー、心配してたんだよー」

「ノックぐらいしろドルト。女性の部屋だぞ」

「いいじゃん。僕とセシリアちゃんの仲じゃんかぁー。って待って待って待って待って!! オズ!! 僕に魔法ぶっ放そうとするのやめて!?」


 相変わらず賑やかな人だ。

 そしてオズ様、人の部屋で魔法をぶっ放さないでください。


「ありゃ、良いところで寝てるね、まる子。セシリアちゃんの膝の上だなんて羨ましい」

「力を使ったからな。しばらく寝かせて──」

「でもオズ、いいの? まる子、オスだよ?」

「!!」

「人型になったまる子とかイケメン執事だよ? 町でひそかに人気が出てるくらいだよ? 本当にいいの?」


 ……イケメン……執事……。

 そういえばそうだった。

 人型のまる子ってものすごいイケメンなのよね。

 普段可愛い猫なのに。


「……おい起きろまる子。寝る時間は終いだ」

 切り替え早っ!!

 そして大人げない!!


「んぅ……あぁ、オズ、おはよ」

 むっくりと起き上がって伸びをするオズ様がその首根っこをつかんで「とりあえずどけろ」と私の上からどける。


「オズのむっつり」

「うるさい」

 あぁっオズ様の眉間の皺が深く!!


「セシリア、お疲れ様。もう大丈夫?」

「えぇ。まる子、ありがとう。まる子のおかげで私、怖いの無くなっちゃった。本当に……本当にありがとう」

 そう言ってまる子の額にキスを落とすと、オズ様から「おいっ!!」と声が飛ぶ。


「やーい羨ましいだろオズ―」

「ふふ。まる子ったら。あ、そういえばドルト先生、町の皆さんは、大丈夫でしょうか? 怪我は──」

「大丈夫。皆元気だよ。セシリアちゃんのおかげでね」


 元気……。

 誰も亡くなることなく、生きてる……。

 よかったぁ……。


「セシリアちゃん、外を見てごらん」

「外を?」


 ゆっくりとベッドから這い出て、薄いカーテンを開け窓の外を見てみると──。


「!! 皆……さん……?」

 屋敷の外に集まる人々。

 その中にはさっきまで意識すらなかった男性たちの姿もある。


 そのうちの一人と目が合うと、「セシリア様だ!!」と声が上がらい、一斉にその視線が二階の私へと集中する。


「セシリア様―!! 父さんを助けてくれて、ありがとー!!」

「セシリア様!! ありがとう!!」

 感謝の言葉が次々と二階のこの部屋にまで飛んでくる。


「君が救った、命の声だ」

「私が……っ」


 救うことができた。

 こんな、何の役にも立たなかった、出涸らしの私が。


「君は出涸らしなんかじゃない。自信を持て。前を向け。君は誰だ? 君の名前は?」

「っ──セシリア……。私の名前は、オズ様のくれた、セシリア……。オズ様の唯一の助手です……っ!!」


 そう涙をためていった私にオズ様は柔らかく微笑むと、その大きな手で私の頭を撫でた。

 そしてまたそんなオズ様をからかうカンタロウとまる子とドルト先生に、オズ様が顔を真っ赤にして否定する。

 

 いつまでもこんな日が続いてほしい。

 思わずそう感じながら、私はその様子を見て微笑む。


 これから起こる事態を予知することもなく──。




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