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【完結】来世に期待します〜出涸らし令嬢と呼ばれた私が悪い魔法使いに名を与えられ溺愛されるまで〜  作者: 景華
第二章

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生きている喜びというものは


 暗い夜の森をケットシーであるまる子の精霊魔法で照らしながら進むと、すぐにトレンシスの町にたどり着いた。


 いつもは誰かしらいる噴水広場も、夜は皆各々の家に帰って誰もいない。

 代わりに辺りの家からは暖かそうな明かりが漏れて、所々で笑い声が聞こえる。

 

 それだけでなんだかほっこりと落ち着いた気持ちになる。

 前はそんな光景すら心に痛みをもたらしたけれど、今こんな気持ちになれるのは、確実にオズ様たちのおかげなのだと思う。

 彼らが、私に居場所をくれたから。


 そんなことを考えているうちに、ドルト先生の診療所兼屋敷に到着した私達。


「ドルト先生、セシリアです。夜分すみません」

 鍋を持っていて両手が塞がっているので扉を叩くことなく声をかけると、すぐに「はいはーい」という声と一緒にパタパタと足音が聞こえ、すぐに扉が開かれた。


「いらっしゃい、セシリアちゃん。あ、まる子とカンタロウも。どうしたの? こんな夜に」

「セシリアがあんたにスープを届けるって言うから、ついてきてあげたのよ」

「スープ?」


 ドルト先生が視線を私の手元に移すと私は鍋を彼の方へずいっと差し出した。


「今日おすそ分けする約束をしていたお魚のスープです。よかったらどうぞ。お魚のすり身を団子にして、あらで出汁をとったもので、とっても栄養がありますよ」


 ドルト先生も少し前までは流行り病にかかっていたのだ。

 栄養のあるものをしっかりと食べてほしい。


「わぁ、覚えていてくれたんだね、嬉しいよ!! 今最後の診療を終えて、ちょうど夕食を作ろうとしてたんだ。重かっただろう? 本当、ありがとうね」


 そう言って私から鍋を受け取ると、「そういえばおいしいチョコレートをご近所さんから大量にもらったんだ。よかったら持って帰って」と中へ促した。


「はい、ありがとうございます」

 オズ様の大好きなチョコレートタルトをまた作ってあげましょう。

 って……それじゃぁ糖尿病の心配が増えるかしら?


「いや~、本当、セシリアちゃんみたいな子がオズの所にいてくれてうれしいよ。あいつ放っておくと食べないか、もしくは殺人級に不味い手料理を食べるかのどっちかだからさ、心配だったんだよね、食生活」

「オズのご飯は不味いからね」

「セシリアの料理には私達も命を救われてるわ」


 皆からこんなにも低評価されるオズ様の手料理っていったい……。

 食べてみたいような、みたくないような。


「少しでもオズ様の助けになれたなら、私の生きている意味も報われます!!」

「生きている意味って……オズのこと大好きだなぁ、セシリアちゃんは」


 好き? 確かに好きか嫌いかで言うと好きだけれど──。


「私の命はオズ様にかかってますから!!」

「重っ!!」


 なんてったって、オズ様には私を綺麗に楽に痛み無く来世に送ってもらわねばならないんだもの。

 そのためにもオズ様には元気でいてもらうのは当然だ。


「でもそっか、生きている意味があるって、生まれてきたことや生きていることの喜びにもつながるもんね」

「それはないですね」

「えぇ!?」


 しまった!!

 つい心の声が素で漏れた!!

 ドルト先生固まっちゃったじゃない!!


「あ、いえ、何でも──」

「セシリアちゃんのこれまでのことは、だいたいわかってるよ。俺も一応貴族だし、幼い頃は王都に住んでたから、小耳にはさんだことはある。貴族内では聖女と言われるローゼリア嬢とその妹のことは有名だからね」


 有名!? そ、そんなに……?

 お姉様だけでなくて私も?

 社交界に出ることがないから知らなかったわ……。

 どうせ出涸らしとして有名なんでしょうけれど……。

 

「前はさ、苦しくて、そう思ってたかもしれない。でも今は違うだろう? オズと出会って、今君はとっても良い顔で毎日笑ってる。穏やかな時間の中で、君らしく輝いてるようにも見えるよ。それは生きてる喜びを感じてるってことじゃないのかい?」


 穏やかな時間の中で……私らしく……。

 そうか、そうかもしれない。

 オズ様と出会って灰色だった毎日に鮮やかな色がついた。


 毎日楽しくて、暖かくて、オズ様がくれた私の居場所が、心地いい。

 そうか、それは──生きている喜び、か……。


「そう、ですね。喜び……そうみたいです。私、生まれてきたからオズ様に出会えたんですものね」

「ふふ。そういえばセシリアちゃんて誕生日いつ? この町でもお祝いしなきゃね」

「へ? おい……わい……?」


 そんなのお姉様が聖女に認定されてからされたことない。

 慣れない響きに戸惑っていると、まる子が「で、いつなんだい?」と見上げた。


「あ、えっと……7日後、です」

「……」

「……」

「……」

「「「はぁぁぁあああああああ!?」」」


 そ、そんなに驚くこと!?

 私なんかの誕生日ごときで!?


「えっと、そんなに気にすることは……」

「気にするよ!? 何言ってんの!? 誕生日だよ!? 家でパーティーとか──」

「もう何年もしたことないです」


 姉の誕生日は毎年盛大に城で王太子殿下主催で行われているようだけれど、私は出席すらしたことがない。

 いつも家で一人留守番だ。

 自分の誕生日も、いつからか祝われることを諦めてしまった。


「出涸らしにはそれが当り前ですから……。……はっ!! そろそろ帰らなきゃ、オズ様が心配です!! ではドルト先生、チョコ、ありがとうございました」


「あ、うん。オズが心配するっていう認識はないんだね……。こちらこそありがとう。気を付けてね」


 手を振るドルト先生にお辞儀をして、私はいただいた大量のチョコが入った袋を抱えると、またまる子とカンタロウとともに屋敷への帰路についた。





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