開幕、想定外の延長戦! 謎の難敵を打ち破れ!
ようやく最終話……長かった(まだ本編にこの話を分割して組み込む作業が残ってるけど)
果たしてヨランテとナガレの前に現れた謎の敵の正体とは!?
俺の名前は、北川ナガレ。
『rrrrrrrrrrrrrrrrrrrriiiiiippppllllllllllllllllllleeeeee!!』
「なんですの、アレ……」
『俺が知るかよ』
夜明け前の山ん中で今までに見たこともねぇような敵と出くわした、ゾンビ刈りの化け物だ。
『rrrrrrrrrrrrrrrrrrrRRRRiiiiiiiiippppllllllllllllllleeeeeeeeeee!!』
「……なんだか、『レジデント・イヴィル』を思い出しますわね」
『何で英語版タイトルなんだよ。普通に「バイオハザード」でいいじゃねえか。まあ確かにあの見た目はバイオハザードの管轄ぽいけどよ』
『rrrrrrrrrrrrrrrrrrrRRRRIIIIIIiiiiiippppPPPPLLLLllllllllllleeeeeeeeeee!!』
アテもなく怪音を出し続けるそいつ――どういうわけか、俺らの存在を認識できていないらしい――の姿は、今まで見てきた人外どもの中でも一際異様だった。
まずとにかくデカい。つーか高くて長いって方が妥当だろう。
拒食症になったカニみてえな八本足と、その中心にある異様に小さな中枢部。つまるところは……
「……クモみたいですわね。今は亡きルイーズ・ブルジョワの彫刻"母蜘蛛"にそっくりですわ」
『ああ、森美術館とかカナダ首都の国立美術館に置いてあるヤツな。確かによく似てやがる。腹に卵を抱えてる風には見えねえから、ワンチャン盲蜘蛛って可能性もあるが』
「ザトウムシって、『ミクロキッズ3』に出てたアレでしたかしら?」
『……だからなんでそういう誰も覚えてねぇようなネタがサッと出てくるんだよ。確かに「ミクロキッズ3」にザトウムシ出てきてたけど……普通そこは第八使徒とかじゃねえか?』
「生憎ヱヴァンゲリヲンには詳しくなくて……」
『……まあ俺も全く知らねぇけど』
なんてくだらねー会話を繰り広げながら、俺たちは物陰に潜み"巨大ザトウムシ"を観察する。
(ナルホドね……そういうことか)
物陰から目を凝らし、細部をじっくりと観察する。
立ち姿は現実のクモやザトウムシよりゃお嬢の言ってた"彫刻蜘蛛"に近く、中枢部の合体節を高所に据える姿勢が基本のようだ。高さは8~9メートル前後で、歩脚一本は短くとも十数メートル強。触肢と鋏角らしきもんは見受けられねえ(或いは距離の関係で確認できんだけかもしれんが)。
(然しまさかあんな構造になってるとはな……)
(何ですのあれ……まるで芸術家気取りのシリアルキラーが作った不謹慎なオブジェみたいな……)
更なる観察の末、俺たちは件の"巨大ザトウムシ"に関する驚きの事実を知っちまった。まずそもそも奴は異様に細く歪な形をした八本の歩脚と、それらによって支えられる透き通った球状の、クモやザトウムシでいう合体節に相当する中枢で構成されている。
んで"中枢"にはどうやら触肢や鋏角どころか口や目玉、肛門らしきものすら見当たらず(よって今現在奴がどの方角を向いているかもわかりゃしねぇ)、ただ透き通った球体の中で内臓と呼ぶのも烏滸がましい"三つの青い球体を繋ぎ合わせたような不自然な何か"がゆっくりとした動きで不規則に回転していた。
……とまあ、これだけでも大概おかしな風貌だが、細部を観察するといっそ異常としか言いようのねえ特徴が明らかになった。
言っちまうと要するに"歩脚がヒトの死体でできてた"んだ。しかもその死体、状態や特徴を見るにどうやら屍人化してるらしい。
(巨大ザトウムシの歩脚が屍人の集合体って、そんなのアリかよ……)
自慢するほどでもねえが、俺は今まで色んな屍人を見ては、そしつらをほぼ残らず刈り尽くしてきた。
その殆どはオーソドックスなゾンビ然とした奴らだったが、中には人間以外の死体が変異した奴だったり、人間の死体ベースでもなんか化け物っぽい姿になった、所謂"変異体"ってのもいた。
だがどんなに妙な姿形だろうが大まかな基礎は生前のまま、ベースの形態を著しく逸脱するようなパターンなんてありゃしなかった。まして、屍人を粘土か何かみてーに無理やりひっつけて何かしらのデカブツにするだなんて、今までの原則からしたら有り得ない話だった。
(ま、俺の知識・経験不足と言っちまえばそれまでだがね)
さて、ともあれヤツがどうやら敵らしいと(暫定的にだが)確定した以上、排除しておくに越したことはねえワケだが……
(とするとどう殺っか、だよな。屍人かどうかに限らず、あの風貌なら何かしらとんでもねぇ能力の四つや五つも持ってそうだしよ……)
必然、対処をどうするかの問題が出てくる。
既に述べた通り屍人には色んな"変異体"がいる。やたら身体能力が高かったり、仲間との連携や集団の指揮から武器攻撃までこなすほど賢いなんてのは序の口で、火炎放射や生体発電、滑空・飛行にジェット噴射での高速移動、武器状に変化した身体や仲間での攻撃と、まさしく挙げればキリがねえ。
まして今回の相手は規格外、何から何まで謎だらけなもんだから何をしてくるんだか全くわからねぇ。迂闊に動くべきじゃねえだろう……そう判断した俺は、一先ず身を潜めながら策を練る。
(……彫刻蜘蛛以外の何かに似てる気がしてたが思い出したぜ。"バンブー・スパイダー"だ、『髑髏島の巨神』のよぉ~)
映画『キングコング:髑髏島の巨神』に登場した"バンブー・スパイダー"は、その名の通り体長7メートル――足を含めりゃそれ以上か――の大蜘蛛で、細長い八本の歩脚でもって竹林に擬態し、股下をくぐろうとした標的を仕留める厄介な奴だ。
劇中では島に乗り込んだ特殊部隊の一人を殺したが、残りに反撃され比較的呆気なく倒されている。
(バンブー・スパイダーは合体節への集中砲火に加え足を斬られて動けなくなった所でトドメを刺された。モンハンの砦蟹にしてもそうだが、まずは歩脚を一本でもぶっ潰すのが先決か)
勿論簡単に行くとも考えてねぇが、やれるだけのことをやってみるしかねえだろう。
ってわけで隣で一緒に隠れてたヨランテへ話を振ろうとしたんだが……
「……!!!」
どうにも様子がおかしい。まるで生きたまま凍り付いたみてぇに、酷く怯えてるような……。
(……不用意に手ぇ出すべきじゃねえな)
下手に刺激したら余計悪化するだけだろうと静観を決め込んだのが功を奏したか、幸いにも程なくしてヨランテは平常心を取り戻したようだった。
「……北川様、唐突に、つかぬことお伺いしますけれど」
『おう、どうしたお嬢』
上品に(?)深呼吸したヨランテは、ゆっくり淡々と、丁寧に絞り出すようなトーンで俺に語り掛けてくる。
さて彼女が唐突に伺ってきた"つかぬこと"ってのは一体何かっつーと……
「岩崎書店の『妖怪捕物帖』ってご存じ?」
『ああ、あの児童小説のヤツか。近頃読み始めたトコだぜ。あれ面白いよなァ。子供向けだと思って見くびってたが……童心に帰るってヤツ? まさか死んでからそういう体験をするとは思わなかったがよ。
で、その妖怪捕物帖がどうした?』
「いえね、私も同書のファンなのですけれど……とある名場面を思い出しましたの。今のこの状況と、似ているもので」
『ほう、そりゃまたすげえ偶然だな。で、その場面ってのはどんなんだ? 思い出すぐれーの名場面ってんなら、そりゃもう爽快感と感動がインフレしまくりな感じかい?』
「……ある意味では、そうですわね。具体的に言うなら……」
息を詰まらせ、なぜか背後を指差しながら、ヨランテは言う。
「……敵に操られた味方キャラが切り札解放で襲い掛かってくるシーン、ですわね」
『その答え、普通の雑談で聞きたかったぜ……』
刹那、ヨランテが背後を指差していたのが気になった俺は咄嗟に遮蔽物の陰から顔を出し……
『避けろ、お嬢っっ!』
「へ? 何をっ、ぎゃあっ!?」
目にした光景を瞬時に理解し、気付けばヨランテを突き飛ばす序でに反対方向へ跳躍していた。
『rrrrrrRRRRIIIIPPLLLLLLLLLLL!!』
青白い極太の熱線ビーム──怪獣王が吐くアレみたいなもん――が俺たちの隠れていた場所を消し炭にしたのは、その直後の出来事で……前後して聞こえてきた怪音から察するに、撃ったのはあの大蜘蛛で間違いねえ。
『お嬢ぉぉぉー! 無事かぁーっ!?』
「な、何とか無事ですけれど、いきなり突き飛ばすのは戴けませんわね!?」
『ああ、悪かったよ。だがあと四半歩でも遅かったら揃って消し炭だったじゃねえか』
「勿論そこは感謝してますけれどっ……こ、腰がぁっ……!」
『いや無事じゃねえじゃん、待ってろ今助ける!』
当たり所が悪かったからだろう、腰をさすりながらうずくまるヨランテを助けた俺は、そのまま物陰に身を潜めつつ大蜘蛛を注視する。
『やれやれ、何やってきてもおかしくねえとは踏んでたがまさかビーム撃ってくるとはなあ』
「しかもあの蜘蛛、目玉らしいものが見えなかったのに明らかにこちらに感付いてましたわよね? なんだか妙な視線を感じると思ってちょっと顔を出したら心なしかこちらに向けて青白い光の玉が向けられてて……」
『なるほどそれで咄嗟に隠れながら後ろを指差してたわけだ』
「ええ。あの状況……なんて言うんですの、ビーム系必殺技の溜め動作? みたいな状態だったのですけれど……それでもう、あまりのショックに気が動転して、わけもわからず咄嗟に児童書の話なんてしてしまって」
『いいさ。俺だって突き飛ばしちまったしな。それより問題は大蜘蛛だ。ビームもおっかねぇが、何よりどうやってこっちを認識してんだかまるでわからねぇ……』
『rrrrrrRRRRIIIIPPLLLLLLLLLLL!!』
お嬢の発言が確かなら、隠れてたって奴はこっちを見つけ出すだろう。だったら正面切ってやりあう方がまだマシだ……そう判断した俺たちは、二手に分かれて物陰を脱し、そのまま大蜘蛛と向かい合う。
「さあ来なさい木偶の坊。私たちが遊んであげますわぁ」
『その歩脚全部ヘシ折ってブチ抜いてやらァ~』
『rrrrrrrrrrRRRRRRRRRRIIIIIIIiiiiiiIIIIIPPPPPLLLLLLLLLLLLLL!!』
徐々に明るくなりつつある山中で、俺たちは大蜘蛛を挟んで向かい合い……武器を構える。
『rrrrrrRRRRIIIIPPLLLLLLLLLLL!!』
「……またその鳴き声ですの? いい加減耳障りだからやめてくださるかしら?」
『全くだ。なんか合衆国の仮想通貨詐欺グループみてーですげえ腹t――
『rrrrrrrrrrRRRRRRRRRRIIIIIIIiiiiiiIIIIIPPPPPLLLLLLLLLLLLLL!!』
『「……』」
俺の発言を遮りかき消すような……狙ってやったとしか思えないほど的確な鳴き声は、俺たちを苛立たせるに十分だった。
「あらあら、止せばいいのに死に急いじゃってまあ……」
『一度死んだ癖してまた死にてえってか。まるで依存症だなぁ……じゃあ望み通り、切り刻んでブチ殺してやるよ!』
『rrrrrrRRRRIIIIPPLLLLLLLLLLL!!』
さぁ~て、廃棄物処理と洒落込むか!
◇◇◇◇
それから暫く後……
『rrrrrrrrRRIIPPPPLLLLLLLLLLLL!!』
『づおっらぁっ!』
「せィやぁぁっっ!」
『RI!! PP!? RIPPPPLLL!?』
ただの一分が数十分にさえ感じられるほど濃密な死闘を経て、俺たちは大蜘蛛の歩脚を破壊し続ける。
結果八本あった歩脚の内六本を破壊し、残るは二本……普通の蜘蛛なら動けねえとか通り越して内臓への負荷なり出血なりでくたばってるだろうが、そこは流石(?)人知及ばぬ領域の存在、八本から一本欠けたなら七本で、更に一本欠けたなら六本でって具合に残った歩脚で器用に動きやがるんだから質が悪い。
「ぜっ、はぁっ、ふへっ、ふ……なーんか、心の何処かで『流石に四本より少なくなったらバランス崩して転ぶのでは?』って思ってたのですけれど……」
『……っづ、っぐ……残り二本でも、バリバリ直立してやがる……っぁ゛ー……』
一応、脚が減ったってのは奴にとって当然不利であり、目指す大蜘蛛撃破が目前へ迫りつつあるのも確かだが……じゃあ果たして余裕で終点まで駆け抜けられるかってぇとこれが微妙な所で……何なら俺らは疲労困憊、対して大蜘蛛は歩脚二本でも案外ピンピンしてやがる。
台詞をつけるなら『やりやがったなこの野郎、だがこっちはまだまだイケるぜかかってこい』ってトコか(つーかお嬢はともかく死人で本来そんな疲れないハズの俺が目に見えてヘトヘトってどういうことだよ)。
(歩脚を減らしても弱体化の気配ゼロだろうと、流石に全部へし折ってやりゃあ……いや、待てよ?)
乱れた呼吸を整えながら、俺はふと思案する。
(……とすると
―――であって
____なワケであるからして
――つーことは
___ってなると
…………なんだから、即ち)
思案は程なく自問自答に形を変え、結果俺は一つの結論に至る。
『――……逆だったかもしれねェ』
思わず声が出た。
「……北川様? どうしましたのいきなり?」
『ああ、悪いなお嬢。なんかちっと思い至っちまったもんでよ……』
「思い至ったって、何にですの?」
『大蜘蛛ぶっ殺す作戦』
「……つまり"二本の脚をいち早くへし折って引き千切る方法"?」
『いや、歩脚は折らねえし捥がねえ……狙いは"別"だ』
疲れからか俺の説明が下手だからか、理解が追い付かず困惑するヨランテに、俺は思いついた作戦を説明する。まあ、作戦ってほど崇高なもんでもねーがな……。
『――ってワケだ』
「なるほど。悪くありませんわね」
『ホウ、意外だな。ダメ出しされるかと思ってたぜ』
「まさか。無駄に硬い脚を必死でへし折る作業に比べればどうってことありませんわ」
『成功する確証はねーぞ。俺の憶測が一つでも外れてたら即失敗だからな』
「つまり、北川様の憶測が全て的中していれば作戦は成功するのでしょう?」
『そりゃそうだがよ……』
「でしたら拒む理由あんてありませんわ。元より既に落としていたかもしれない命、北川様に拾って頂けたおかげでここまで延命できたのなら、そのご恩に報いるは必然……要するに"|位高ければ徳高きを要す(ノブレス・オブリージュ)"ですわね」
『へへっ、そういうもんかねぇ~。ならちっと世話んならせて頂きますぜ、ユイカお嬢様ぁ~』
「……!」
冗談のつもりだった俺の発言が予想外だったのか、ヨランテは少々困惑気味だったが……
「ふふん。ええ、いいですわ。思う存分に頼りなさいな――」
その実すぐさまノってくる程にも余裕だったようで、
「高貴なる戦闘型悪役令嬢、ヨランテ・CORRECTORS・カインドネスこと"春日部ユイカ"である私をっ!」
夜明けの日差しに輝く長髪を微風に靡かせて、堂々と華麗に言ってのけた。
『rrrrrrrRRRRRIIIIIPPPPPPLLLLLLLLlllll!!!!!!』
立て続けに大蜘蛛の発した怪音は、宛ら最終決戦開幕の合図ってトコだろう。
さて、こっからが正真正銘最後の戦いだ……!
『よっしゃ、行こうぜお嬢ッ!』
「ええ行きましょう北川様。ヤツめは最早臨戦態勢、寸刻の猶予さえありませんわッ!」
『rrrrrrRRRRRRRRRRIIIIIIIiiiiiii……――!』
へし折られ引き千切られて僅か二本になった歩脚で尚も直立する大蜘蛛は、そのまま極太光線の発射態勢に入る。
ヤツの光線は迸るエネルギーを球状に収束させ圧縮、形成された十柱戯玉大の光球を砲口に放つもので、俺たちが見た限りではヤツが有する唯一の遠距離技かつ、最大級の破壊力を誇る攻撃手段と言っていい。
『――……iiiiiiiiiii……――!』
「さあ北川様、お乗りなさい! 光線発射まで時間がありませんわ!」
『おうよぉ~……っと、乗ったぜお嬢! さあ投げてくれっ!』
「わかりましたわ! では行きますわよっ……セイッッッ!」
『ダァッ!』
ヨランテの腰から伸びる二本のロボアーム、救世七星と地獄学級名誉担任の投げに渾身の跳躍を挟む形で、俺は空高く跳び上がる。
『――……』
高度何十メートルかの、少なくとも山のどんな木より高い空の上での、束の間の無重力状態……トラックに跳ね飛ばされた多芸な歌手よろしく逆さになって浮いてみりゃあ、運良く身体が東を向いてたんで日が昇りかけた夜明け空を眺めることができた。
『――……いい眺めじゃねえか……――』
思わず言葉に出てしまうほど、感動的な絶景だった。夜明けの空なら何度も見たが、生身じゃ到達できねぇ高度で、かつ上下逆さってなるとそう経験できるもんじゃねーからな。多分二度とできねぇ体験だろう。
……ってな感じで感傷に浸るのもそこそこに、俺は無影黄昏と鏖麗茨姫を起動……全自動で変形した二つの試作品は、瞬く間に俺の身体へ装着される。
『――……二十五秒経過。そろそろ落下り時か……』
徐々に重力が戻りつつあるのを察知した俺は、すぐさま攻撃態勢に入る。
[Activate Sleeping Beauty's posture control system.
Target acquisition complete.
it's right under you.
Continue the free fall while maintaining the slashing stance.]
(和訳:鏖麗茨姫の姿勢制御システムを起動。
標的捕捉完了。
真下に居ます。
斬撃姿勢を維持したまま自由落下を続けてください。)
『了解した』
無影黄昏の指示通り、プラズマ・ノダチを構えた俺は、鏖麗茨姫の要求と重力に身を任せる。
――『PLLLLLLLLLLLLLllllllllllllllllll!!!!』――
――「負けるものですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」――
ヨランテと光線の撃ち合いを繰り広げ互角に渡り合う大蜘蛛……
(歩脚を構成する屍人どもの"目玉"で全方位を見張れるだけに地上からじゃ死角なんざねぇだろうが、顔面が横向きばっかなんだから流石に真上は見えねえよなァ~)
つーか、目の前のヨランテを相手にするので精一杯なんだろう。
だがお陰で、透き通った丸っこい、如何にも柔らかそうな中枢部は無防備だ……
(トドメ刺すには丁度いい……)
ここまで来た以上、一先ずやるしかねえだろう。
[Now. Slash.]
(和訳:今です。斬撃を。)
『――ッシャあッッ!』
地上数メートル。
無影黄昏の指示通り、獲物を振り抜く。
『――rriPP!!??』
熱帯びて光る刀身は透き通る球状の中枢を叩き斬る。
『Ri――pp――le――?』
真っ二つに両断された中枢部から、中身が抜けていく。
『.....e e . . . . . . 』
内部に満たされていた透明な"液体"が、裂けたゴミ袋から流れ出る廃油よろしく流れ出し……
『 r , i . . .p...?』
青い球体を三つ繋げたような"内臓モドキ"が、生の卵黄か魚の浮袋みてーに"でろり"とこぼれ落ち……
『 l e 』
「破ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
中身を失った"中枢部の抜け殻"は、当然光線なんて撃てるハズもなく、ヨランテの仙亀頭蓋によって消し炭にされ、本体を失ったもんだから残る二本の歩脚も機能停止……取り壊された廃墟の柱よろしく、力なく崩れ朽ちていく。
そして……
『 R . i . p . p . l . e . 』
残る青い"内臓モドキ"――完全な憶測だが、多分大蜘蛛の核に相当するそれ――もまた、蚊の羽音より微かに弱弱しく例の怪音を鳴らしたかと思うと、
イラついた地引網の漁師がアスファルトに投げ捨てたアカクラゲみてぇに動かなくなり……
『 』
程なくして、死んだ。
いやまあ、確証はねーけど、多分死んだだろう。
つーかもう面倒だから、死んだってことにしておこう。
(哀れだな……どうしてそうなったのか知らねえがよぉ……)
ど派手に出てきた大蜘蛛の最期は、いっそ切ねぇぐれーに呆気なかった。
◇◇◇
「……終わり、ましたの?」
『おう、終わったぞぉ……やっとこさ終わったんだ』
「長かった、ですわね……」
『ああ、長かったな。ほんと長かった……どうしてこんな長引いたんだってぐれーに、長かった』
「……ええ、全くですわ。もう暫く荒事は御免ですわね……」
『同感だ。……一先ず仲間と合流する。お嬢も来るだろ?』
「当然、同行させて頂きますわ。私他に行く所なんてありませんもの」
『自信満々に言うこっちゃねーだろうがよ……ま、俺も手ぇ貸すって決めた以上は可能な限り手助けすっからさ……取り敢えずは衣食住と働き口だな』
「ええ、そこですわね。……もしよろしければ、北川様の町に住まわせて頂いても?」
『いんやあ、そりゃやめとけ。サイトウ地区はドヤ街だ。要は貧民街……善人は多いがそれでも治安は悪ぃし何かと不便も多い。俺は死人で化け物だから秒で馴染めたが、戦闘型とは言え並みの人間……それも女学生上がりの悪役令嬢が暮らせるような場所じゃねえんだ』
「ではどうすればいいんですの? この世界の人間でなく、戸籍も何もない私風情に他の選択肢なんて……」
『あるんだな、これが。知り合いにいるんだよ、あんたみたく路頭に迷っちまった乙女やご婦人がたを拾って手厚く世話してくれる心優しいマダムってのがよ』
「……なんか怪しいですわね。その方、本当に信用できるんですの?」
『心配いらねえ。常人より色気と性欲がオーバーフロー気味にオーバードライブしてるし色々規格外にデケェけど基本的にいい女性だから』
「いや益々怪しいですわね!? 色気と性欲がオーバーフロー気味にオーバードライブってまず意味不明ですわよ!?」
『ニュアンスで察せるだろ? まあ、なんかまあ色気スゲーし性欲ヤベェってことだよ』
「ああそういう……。色々規格外に大きいっていうのは? 具体的に何が大きいんですの……?」
『背と乳と翼と心かなあ』
「そんなどこかのスペースコロニー暮らしの赤い大佐みたいな……って、翼!? 翼ってそれもう人間じゃありませんわよね!?」
『ああ、ガッツリ人間じゃねえな。何なら元人間だった俺より人間じゃねーわ。まあ、その辺は後で纏めて詳しく話すから……』
「いや後回しにせず今すぐ話して下さいましよ! なんかもう色々と気になりすぎて疲れてるのに寝れそうな気がしないんですけれど!?」
『待ってなー。とりあえず仲間と知り合いにメールしてっから……指定の合流場所から結構離れてんなー。待ってるだろうし急がねーと。あとエコカリのログボ回収とデイリー消化、序でに役所と大学の方へ大蜘蛛の残骸の調査要請も出しとくか。やっべーな結構やることあるぞ……』
「いや待てませんけれど!? そのくらい勿体ぶらずすぐに教えて下さいな! まずゲームの序でに調査要請っておかしいでしょ!? そもそも役所に大学って何!? 北川様そんなコネまでお持ちですの!? っていうか一つの台詞の中に複数のボケ混ぜるのやめて下さいませんこと!? ツッコミ所多すぎてどこからどう処理していいのかわかんなくなっちゃいますわよ!」
『まあまあ落ち着けって。折角高貴な肩書き持っててスタイル良くて美人なんだからさぁ、もっと肩書きと容姿に合った立ち振る舞いした方がカッコいいしモテると思うぜ? なんだこう、《白銀の城のラビュリンス》とか《斬リ番》とか《ワーム・クイーン》、でなきゃ《ガーディアン・デスサイス》みてーにさァ』
「誰のせいで落ち着けなくなってるとお思いですの!? あと牛姫は兎も角残りの三枚はどれも高貴さとは縁遠いモンスターばかりですわよね!? 何なら地球外生命体と心の闇なんて設定上女性型とされるだけで美少女モンスターの括りにすら入らないのではなくて!?」
なんて具合に朝方の森を進むこと二十分余り……合流地点にたどり着いた俺たちは、自警団のドライバーである三森さんの運転する中型バンで一先ず泥得サイトウ地区へ向かった。
そっからの動きは(事前連絡を済ませていたのもあり)スムーズで、ヨランテは件の"背と乳と翼と心がデカい知り合い"に引き取られ、宛がわれた仕事をこなしながら平和に暮らしてるそうだ。
また、彼女は元々戦闘型なだけに自警団にも入っているらしく、屍人刈りで俺と共闘なんてことも結構あったりする。
▽▽▽▽
『『『『『ヴウウウアアアアアア!』』』』』
「全く次から次へとキリがありませんわね……」
『ああ全くだ。楽ばっかしてちゃ結果なんざ出せやしねえってのは、どこも同じらしい』
今日も今日とて、俺たちは屍人やその他市井・人畜に害をなす連中と戦い続け、その傍ら互いの目的に向けても諦めず進み続ける。
俺は復讐、ヨランテは元居た世界への帰還……それらを果たすまで俺たちはそうそう立ち止まらねえし、仮に目的を果たしたとて恐らく、何かまた別の目的に向かって結局は走り続けることだろう。
何故なら多分、俺たちは……結局そうするしかねえような"そんな程度の存在"だろうから。
『細切れにしたらァ、劣等どもが!』
「吹き飛びなさいよ、死に損ない!」
『『『『『グオオオオガアアアアアッ!』』』』』
「同情の余地なき貴方がたには、天国なんて贅沢過ぎる!」
『然しさりとててめえら如き、地獄に落とす価値もねえ!』
「なればこそ消えてしまいなさい!」
『ただ無限の虚無へと消えて行け!』
ひたすら破壊しながら、進み続ける――
「私たちが――」
『俺たちが――」
『「お前たちにとっての "終末" だぁ!』ですわッ!」
――いつか来るだろう"終焉の瞬間"まで。
ご愛読有難うございました! 『ヤバヨラ!』は今回で最終回ですが、悪役令嬢ヨランテとゾンビ怪人ナガレの物語はまだまだ続きます!
続きは『デッドリヴェンジ!-最愛の婚約者共々殺された筈が俺だけゾンビ化したのでとりあえず下手人に復讐します-』本編のエピソード『ある二人を襲う悲劇と、復讐劇の始まり』をご覧ください!
リンクはコチラ!→https://ncode.syosetu.com/n3686ib/1/
(現状はナガレしか登場しておりませんが、後々ヨランテも本編に合流して活躍予定です! ご期待あれ!)