ゾンビを刈るゾンビこと"死越者"北川ナガレ、悪役令嬢を助けつつメスガキをわからせて(?)遊ぶの巻
はい、というわけで始まりました『デッドリヴェンジ!Ver.3.14』!
もうタイトルからして情報過多、あらすじからして意味不明ですが何のかんのありつつ頑張って行きたいと思っておりますのでね、
一先ずよろしくお願い申し上げますというわけでして。
時は初夏。草木も眠る丑三つ時……
『ヴォオガアアアアア!』
『ヴルアアアアアア!』
『グオオオオオオオッ!』
僅かばかりの街灯しか光源のない寂れた山麓の村に響く、人とも獣ともつかない呻き声……
『ゴウゴガアッ! グゲガアアッ!』
『ブバァッ! ブボベバァッ!』
『ギイギギギガガガガギイイイイッ!』
『グギャギャギャギャガゲエエッ!』
どうにも不気味でどうしようもなく不愉快な、
雑音と称するのも烏滸がましい"それ"を発するもの……その正体とは"動く屍"!
目的もなく、信念もなく、本能かどうかさえ曖昧な意識のまま、群れを成してぞろぞろと歩き続ける……
『ちっ、めんどくせぇ事態になっちまったなァ……』
そして、それらを物陰からじっと睨み憎らし気に毒づく、一人の男……
『入り組んだ土地に圧倒的な物量の差、
序でに道中拾っちまっためんどくせえお荷物と……』
男の身なりはどうにも不審者じみていた。
血の染み付いたミリタリージャケットやカーゴパンツ、傷だらけの皮手袋、履き古された安全靴……そして、不気味にほくそ笑む狸の能面。
宛ら都市伝説の怪異か、ホラー映画の殺人鬼が如き異質さ……暗い夜道で出くわしたなら、気絶せずにはいられない。
『ヒトっ気がねえだけまだマシだが、それでも優位性が全くねえとはどうにも笑えねェ。
……まあしょうがねぇや。愚痴ってたって事態は進展しねえンだから』
ゾンビと同等か、或いはそれ以上に異質かつ異様……俗語で言うなら"ヤバい"存在であろう彼の名は"北川ナガレ"……
受け入れ難い悲劇に見舞われ乍らも"再起の機会"と"逆襲の力"を授かり、自ら"怪物"と化した男であり……
『"怯む"と、思うのかよ……
これしきの苦境でよォ~……!』
この物語は未来を奪われ"怪物"と化した男の、義憤に満ちた死闘と、憎悪に塗れた復讐の記録である……!
〇〇〇〇〇
俺の名前は、北川ナガレ。
『ヴァアアアアアア!』
『ヴエエエエエエアアアア!』
『ヴァアアアア!』
『おーおーおーおぅ、
騒いで暴れる以外能のねえ劣等どもがよくもまあこんな集まりやがって……
どうせ俺に刈られて無様に散る運命だってのに"ご苦労"なこったぜ。
いいぜ、かかって来い……俺が直々に、戦ってやるからよォ~』
ひょんなことから"ゾンビを刈るゾンビ"になっちまった、元・どこにでもいる普通のサラリーマンだ。
いきなりだが、俺は今途轍もなく厄介な状況に立たされちまってる。
その要因は大きく二つ。
一つは、ここまで読んでくれた親切で心優しい読者諸君がお察しの通り……敵の数が多すぎるっつーシンプルなヤツだ。
そもそも色々ワケあってゾンビ刈りを生業にしてる俺は、今日も今日とてゾンビどもをぶっ潰しまくるべく目撃現場へ急行したワケだが……
(……フツーさあ、思わねえじゃん?
昼間っから屋外でデラックスのドライバー巻いてダークライダーごっこしてる純粋なガキの「ゾンビが出た!」発言だぜ?
大体はどうせ見間違いか、構って欲しさから来た虚言妄言でしたってのがオチじゃんよ……
そんで実際調査に赴いて「見間違いだったぞ」って訂正して、笑い話で済ますのがテンプレだろうによ……
なんでマジで出てンだよ、ゾンビがよぉ。
しかもあんな、秋ごろの渋谷にタイラントだかタナトスだかバラ撒いて頭数揃えたような数がよォ~ッ!)
まァ~なんだ、見通しが甘かったわなァ。
所詮は稚児の言葉と侮り散らかし、軽く流そうとしてたのを上から『一応行っとけ』と言われて出動……したら開始二分でゾンビに遭遇、その量が尋常じゃねえってんだから笑えねえ。
(しかもそれだけなら"まだ"やりようはあったっつーのに、運悪くこんな見るからにドエラい"拾いもん"しちまってさァ~ほんとツイてねーよ俺ァ)
ま、それも結局はてめーの不手際故だがね……なんて内心自嘲しつつも、そろそろ説明せにゃなるめえ、この俺が厄介な状況に立たされている要因の二つ目を……
(まあそんな疫病神みてーな言い方しちまったら"こいつめ"に失礼だろうけどもよ……)
第二の要因ってのは――多分、文脈から凡そお察しだろうが――ゾンビどもとの交戦中、図らずも救助する羽目になっちまった謎の女だ。
白金色の派手な縦ロール、手入れの行き届いた白肌、生きた西洋人形よろしく端正な顔立ち、派手で高級そうな召物や装飾品の数々……察するに富裕層の令嬢か、そういう仮装をしてる専門家か。
どっちにしろ過疎化しまくりで廃墟・廃屋だらけな山中の限界集落になんてまるで似つかわしくねえそいつが、なんでか無数のゾンビどもに追い回されながら姿を現した。
「いやぁ~ん! 一体これはどういうことですの~!? 何故わたくしがこんな目にぃ~!?」
いっそ表彰したくなるほど"如何にも"な逃げっぷり……正直『このまま放置しとくのもいいか』なんて平成初期によくいた(?)好色なゲーマーばりのキチクズムーブをかましたくなる程には滑稽だったが、
如何に性欲や恐怖心まで死にかけた"ゾンビの化け物"とはいえ、性根まで完全に腐りきっちゃいねぇってモンで、
『おらよッ、吹っ飛べェ!』
『ヴアアアアア!』
『ヴエエエエエ!』
『ちっ、しぶてぇな……勿体ねーがもう一発だ、食らってくたばれェい!』
『グゴオオオオオ!』
『ブボバアアアアア!』
「いやあああああっっ!? こっ、今度は何ですの~!?」
『ほれ姉ちゃんこっちだ来なっ! 一旦逃げっぞ!』
「えっ、ちょっと!? アナタ一体何をしてっ!? ちょっとおおおお!?」
とりあえず持ってた装備で迫りくるゾンビどもを軽くいなしつつ、女を担いで安全そうな物陰へ逃げ込み今に至るワケだ。幸いにも見た目の質量に反してアホほど軽かったんで担ぎ上げるのにそう苦労はしなかった。
まあ今の俺なら全盛期の吉田沙保里や安藤和代を担いでも案外走れるだろうけどもよ(なに?『どっちも担いで逃げるまでもなく自らゾンビに立ち向かう』? 『前者ならゾンビが逃げてくから逃げる必要すらない』? バカが、知ってんだよその程度のことは)。
さて、救助したならそっから先は事情聴取。
この女が何者で、何故ゾンビどもに追われてたのか、その辺洗いざらい聞き出してやろう……と、思ったワケではあるが……
『……さて、ここなら一先ず安全だな』
「――」
『でよぉ姉ちゃん、助けてやった礼ってコトで……質問に答えて貰おうか?』
「――」
『なんだよ無視か? ツレねーな。
袖振り合うも他生の縁つーか、出会った以上縁ができたワケだしよ、
ちったあ仲良くしてくれてもいいんじゃねェかい?』
「――」
『……あれ? なんかおかしいぞコレ……
オーイ姉ちゃーん? 生きてっかー?』
「――」
『へんじ が ない。
ただの キゼツしている よくわからんオンナ のようだ』
運び方が悪かったか、気付けば女は気絶していた。
まあ無理もねえことだ。むしろ(いつからあの状態だったかは知らんが)あの生き地獄を一般人が独力でよく生き残ったもんだ。
逃げっぷりよりそっちを表彰してやりてえわ。
(……でまあ『そんならこいつの意識が戻るまで守るしかねーな』と一念発起、ゾンビども相手に反撃の機会を伺いつつ今に至る、ってワケだ)
さて、それでこの後どうするかについてだが……まあ、ここまで読み進めてくれた心優しくてストイックな読者諸君なら大体察しはつくハズだ。
答え合わせをすると……そう、"鏖"だ。
この状況を脱し、未だ気絶したままの令嬢っぽい女を守り抜くべく、俺はゾンビどもを鏖にする(つっても、奴ら既に死んでっから"殺す"ってのも聊か不自然な表現ではあるがね……)。
『待ってな姉ちゃん、すぐにこいつら片付けてやっからよ~』
女を寝かせ、囲むようにゾンビ避けを置く。
このゾンビ避けは半径1メートル範囲に奴らが不快に感じ逃げたがる電波を放つ代物で、専用アプリで遠隔操作もできる優れものだ。
(まあバッテリエグいほど食うから四半日しか持たねえが……この規模でも流石にそこまで長引きはすめぇ)
ただ念のため仲間に連絡、無人機での物資補給を頼んでおく。
元々持参していた装備は防具やスマホ、財布やゾンビ避けなんかを除くと武器二つ(うち一つは実質使い切り)に手投げ爆弾が五つばかり……あの規模の大群を相手取るにはどう考えても心許ない。
しかも爆弾は既に二つ、女を助けるのに使っちまってるから余計に火力が足りねえ。
(そりゃ~サイヤ人とか悪魔超人とかプリキュアみてぇなプロの殺し屋集団ならいざ知らず、こちとら民間人にチェーンソーかレールガンが生えた程度のもんでしかねぇからな。
やっぱ面倒な現場に挑む以上は相応の装備を整えなきゃあ……――ィよっ!』
ある程度女と距離を取った所で、俺は立ち幅跳びの要領で跳躍……群れで突き進むゾンビ共の前へ躍り出る。
『っと。
よぉ、クソ劣等ども……
今夜は絶好の"刈られ日和"だぜぇ?』
"颯爽と立ちはだかる"、なんててめえで言うのもアレだが、実際我乍ら中々様になってる登場ができたと思う(セリフは致命的にスベっちまったが)。
『ヴアアアアア!』
『ヴゴオオオオッ!』
『ヴァバガグゥッ!』
『ゴギョエエエエエッ!』
目の前に堂々と現れたからだろう、俺の存在を認知したゾンビどもは立ち止まり、口々に俺を威嚇する。
『いいねェ~……智のねえ劣等なら"それらしく"問答無用で襲いに来りゃいいものを、わざわざ威嚇までして雰囲気出してくれるなんてよぉ……』
相手に理解される筈のない嘲りを添えて、俺は武器を抜く。
SFじみて重厚な"誘導棒の柄めいた装置"を構え、柄末端部のピンを引けば青白い伸縮式の"刀身"が顔を出す。
『実に、実に有り難え……』
すかさず柄の下半分を捻れば、一辺2.5センチの角柱型で刃渡り90センチの"刀身"は、青白い光を放ち凄まじい熱を宿す……無機と有機の区別なく案外色々焼き断つ"必殺外道剣 プラズマ・ノダチ"の出来上がりだ。
『ほんとお前らには感謝しかねえからよォ~
とりあえず礼がてら──
刈られといてくれや、なアッッ!』
『ブジュウウウウッ!?』
『ガエエエアアアッ!?』
『バゲエエエエエッ!?』
景気付けがてら横一文字に"薙いで"みれば、最前線のゾンビが三匹ほど斬り飛ばされている。
焼き斬られ焦げた腐肉が悪臭と体液を撒き散らしながら宙を舞う様はいっそ滑稽で、俺の精神を昂らせ更なる破壊行為へ誘う。
◇◇――≪刈っちまえよ、北川ナガレ。それがお前ってモンだろう?
何も躊躇うこたあねえ。
奴らは人間なんかじゃねえ、ただの"物体"だ≫――◇◇
ふと脳裏に響く、今はなき友の声。
間違いなく、幻聴だろう。
だが幻聴こそが、どんな声援や激励より俺に力を授けてくれる。
◇◇――≪刈り尽くして、破壊り盡せ。
所詮は塵に過ぎねえならば、残らず塵に還元すだけ。
何せ奴らはお前の仇敵……お前の彼女を無意味に殺した屑どもだ。
屑は屑らしく、崩壊すに限る……
なあそうだろう、死越者?
死に抗いて、死を越えて、昼夜の差なく屍を刈る怪物よ……≫――◇◇
(ああ、そうだ……その通りさ虚空に消えた姿なき友よ……
俺は"死越者"――屍人を刈る"ゾンビ超人"……
つまりはゾンビを超えし者であるからしてっ、こんな連中如きに遅れを取ろうハズがねえんだッ!』
『ガアアアアッ!?』
『ヴエエエエッ!?』
『ヴォゲエ!?』
『ブバガッ!?』
脳内に留めるつもりの独白を思わず口走りながら、俺はプラズマ・ノダチを振るう。
『シエエアッ!』
『ゴブゲッ!?』
『ギビッヅウ!?』
『ゴボガ!?』
『バヴグズウッ!』
武器を手にしてから習い始めた付け焼刃の"剣道"と、映画の真似事を高い身体能力で補強した"無駄に本気のチャンバラごっこ"を雑に混ぜたそれは、
言っちまえば"ド素人流・出鱈目剣術"とでも呼ぶべき見るに耐えねえ酷ぇ代物だったが……
『ブチ貫かれろ、ガトツ・ゼロッタァイ!』
『ドゥブエエエエッ!?』
『ヅガアエアアアッ!?』
『ブチ壊したらァ、ヴッタィエノ・キッヴァーミィ!』
『『『『『ウ〝ア〝ア〝ア〝ア〝ア〝ア〝ア〝ア〝ッ〝!?』』』』』
格下の雑魚相手かつ、圧倒的身体能力とインチキ性能な武器のお陰もあってゾンビどもは順調に不揃いな焦げた腐肉片へと変換されていく。
だが……
『ヴアアアアアアアアッ!』
『ヴエエエエエエエエッ!』
『ブボウッ! ボボボバウッ!』
『ギュイギギャギギャギィーッ!』
『ヴォンドォルルァラララギッツァンディッカァァァ!』
『ボドドッボッドッボドボッドボドボドボッドッダァッ!』
『クサムッコロロロロロロロロロロロロロロォッ!』
『ヴォレラザイッギョオダアアアアアア!』
散々切り刻んでやったハズだが、ゾンビどもは尚も大群で押し寄せてくる。
(やっぱ近接武器だけじゃ限界かー)
いつも通りなら支援物資到着はそろそろだが、といってそれでも待つには長え……
『出し惜しみなんてせず、ガンガン使ってくかァ~』
気が滅入りそうな大群を前に、一先ず落ち着こうと身を潜めた俺は心を昂らせ"この難関をこそ楽しむ"べく気持ちを切り替える。
▽△――『なにナガレ? 「敵の数が多くて気が滅入る」?
それは敵との闘い、ゾンビ刈りを「大変だ、楽しくない」と思うからだよ。
逆に考えるんだ。
「ゾンビ刈りは楽しい」「より多くのゾンビを刈れるなんてラッキーだ」と……』――△▽
脳内に急遽召喚したナイスミドルな英国紳士のかけてくれた優しい言葉を臓物に浸み込ませ、俺は再びプラズマ・ノダチを構える。
『さあ殺ろうぜ、クソゴミ劣等ゾンビども……』
『フギャアアア――
『甘えっ』
『グガッ!?』
いざ物陰から戦闘開始って空気の中……不躾に飛び掛かってくるゾンビの首を、俺はノールックで掴んで離さない。
『ガッ! グウアッ! ガッギギ! グガゥッ!』
(やけに軽いな。まあ肉が腐って落ちてるからだろうが……)
見ればそいつは学生服を着た小柄な女だった。
声からして若い女とは思っていたが、こんなに小さいとは……
『グウウウッ! グガグウウッ!』
(体格だけ見りゃ小6か中1……だが着てる制服は恐らく高校、それも結構学費取るタイプの私立の……
つーか、美人の割には如何にも性格悪そうな顔だなぁ……)
あちこちでゾンビを見慣れたせいだろうが、俺は顔面に主要パーツとある程度の皮膚や筋繊維さえ残ってりゃ、そいつの生前の顔立ちやよく浮かべてた表情、果ては大まかな性格さえわかるようになっていた。
俺に飛び掛かろうとしてあっさり首を掴まれた女学生ゾンビ……死後日が浅く腐敗も他と比べさほど進んでいないそいつの生前は(あくまで推測だが)小柄乍ら顔がよく、それでいて傲慢でクソ生意気な、他人を見下し煽って楽しむ性悪のクズってとこだろう。
(なんだったかなぁ、サブカル界隈にこんなのがいるって聞いたことあるんだが……
確か、常日頃から他人、特に異性や年上、オタクなんぞを異様に見下してて『ざこ』とか『ざぁ~こ』なんて変わった鳴き声が特徴的な……)
『グギャゥ! グゥッ! グガガグゥッ!』
騒ぐゾンビを掴んだまま考えること暫し、俺はようやっと"当該生物"を思い出す。
『ガッ! ギギィ! グガグゥッ!』
(そうだ、"メスガキ"だ! "メスガキ"だよ!
年齢不相応に痩せてて不健康そうな身体つきに腐りきった性根と歪んだ性格、そして特徴的な鳴き声……は、推測だが、ともかくこいつは所謂メスガキと考えて間違いねえ!
いやあ、スッキリしたぜ。思う存分寝て起きた、窓からいい感じの陽光が差し込む春休み初日の朝みてぇによぉ~……)
序でによく見りゃ手首には無数の切り傷、手触りから察して首筋には太い縄みてえなもんが巻き付いて死ぬほど強く圧迫したような跡がある。
とすると……
『自傷しまくった挙句首吊って自殺、かァ~……
若くて顔も良くていい学校通わせて貰えてたってのに、勿体ェねーことしやがって……ンの雑ァ魚がァ~』
『ガアアアアッ! グガアアアッ! ゴッガガアアッ!』
死因絡みの憶測を至近距離で煽るように述べてやれば、メスガキゾンビは激昂したように激しく暴れ騒ぎ立てる。まるで俺の憶測が図星で、しかも奴がその内容をあたかも理解したみてぇに。
『なんだぁ、わかりやすくキレ散らかしやがって。まさか図星かぁ?
……メスガキが大の男に煽られてキレてんじゃねえよ。ウジ虫が死体に食われるようなもんじゃねえか』
『グエエエエギガガガアガアアアギギャガゲギギャガアアッ!』
サービスがてら追い撃ちをかけてやれば、メスガキゾンビは更に怒り狂い暴れまわる。
この劣等ゾンビどもに生前の記憶や知性があるなんて考えたこともなかったし、今でも到底そうとは思えちゃいねぇが、然し有り得ねえって確証がなきゃ否定もできめえ。
(そもそも俺とて「生前の記憶や知性を引き継いだゾンビ」なワケだしな……程度の差こそあれ同類が居ても不思議じゃねぇ、か)
『ガグギャ、グギイッ! ヴァガズェ! ガザヴェエッ! ゴボダゾバァッッ!』
まァ~同類だろうが何だろうが敵って事実に変わりはねぇし、極論『だから何だ』の一言に尽きるがな。
『つーかいい加減五月蝿ぇし鬱陶しいンだよオメーよ。何時までそうやって騒いで暴れてる気だ?
幾ら喚こうが踠こうが状況は好転しねーって理解できねぇのか?』
『グガキャガァァァアアアアアッ!』
いっそ黙らせようか、とさえ思う。幸い劣等ゾンビどもの構造は至極シンプルだ。
何せ体内のどこか(十中八九頭か胸、または腹ん中)にある駆動中枢を破壊すりゃ再起不能ってんだからな。『水戸黄門』のオチかってぐれーのシンプルさだ。
『このまま放置しといたってメリットねぇしなあ……いや、待てよ?
いい案を思いついたぜぇぇェェ~……!』
『ガッッ、グギィィッッ……!?』
メスガキゾンビの首を掴む手に力を込めてやると、奴は全身を痙攣させながら擦れ声で悶絶し始める。その反応が物語るのは……
(よし、ビンゴ。こいつの駆動中枢は頭蓋骨ん中にある! ってことは……)
『ッラァ!』
『グギャッ!?』
俺はメスガキゾンビの首を掴んだままその蟀谷をプラズマ・ノダチの頭部分で打つ。すると奴の身体から力が抜けていき、五体は思うように動かなくなる。駆動中枢に一定の衝撃を与え、生者でいう脳震盪に近い再起不能状態にしたためだ。
『ガ、アグ……グウガア……!』
『おいメスガキぃ~。オメー、どうせ周りに迷惑かけまくったまま死んだクチだろ? なら最後の最後の最後ぐらい、この俺の役に立ちながら華々しく散ってみろや』
『アガ、グガグッ! グウガガアッ!?』
『おお、そうかそうか。誇り高い最期を迎えられてそんなに嬉しいか。
待ってろよ~準備が終わったらすぐだからなァ……』
まだ意識のあるメスガキゾンビは当然抵抗を試みるが、まあ無駄なことだ。
俺は一旦奴の首から手を放し(序でにプラズマ・ノダチもその辺の地面に突き刺しておく。持ったままだと動き辛ぇし)、遮蔽物の向こうで蠢くゾンビの大群目掛けてある物を放り投げる。
手投げ爆弾を円筒形に引き延ばしたようなそれは上手い具合に放物線を描いて飛んでいき、開けた場所の上空で炸裂……軽い破裂音を伴い、細かなラメっぽい輝く粉を撒き散らす。
『ヴァアア!?』
『ヴエエエエ!』
『ヴァエエエエ!』
するとあら不思議、輝く粉の撒かれた辺りに次々劣等ゾンビどもが寄り集まっていくではっ、あぁ~りませんかっ! ってなもんで、散らばってた奴らを一網打尽にする準備が整うわけだ。
『さあ準備完了だぜメスガキ。とりあえずお口あ~んしようなァ?』
『アガ、グガア、ガアアッ!?』
駆動中枢へのダメージで筋肉が程よく弛緩しわりと簡単に開いた奴の口腔内へ、俺は残る三つのうち一つの手投げ爆弾を捻じ込み無理やり飲み込ませる。
『ほい、"ごっくん"しよーなぁ~。そーれごっくんこ~~』
『ングウ!? ンン゛、ッッッン゛ン゛ーッ!?』
『おぉ~エラいなァ~。上手に"ごっくん"できたなぁ~』
続け様に俺は仲間から支援物資として贈って貰った"砂糖とバターを溶いたガソリン"の入った硝子瓶を奴の身体に幾つか括り付け、余った瓶の中身を奴の身体に塗りたくり、頭髪や衣類に染み込ませ、奴自身にも飲ませてやる。
『じゃあなメスガキ、地獄でも達者で暮らせよ』
『グガッガ! グギャギイイイイ!』
更にこれまた支援物資として届いた組立式の投石機に乗っけたメスガキを、俺はゾンビどもの群れ目掛けて発射する。
『あばよ~メスガキ~』
『ガッ、グギャア!? ギャギゲガアアアアアアッ!?』
組立式とは言え投石機の出来と性能がいいからだろう、発射されたメスガキはそりゃあもう見事な放物線を描いて飛んでいき……そのままゾンビどもの群れのど真ん中へ落下。
そして
『ズァァァァァァッグォォォォォォォオオオオ!?』
『ヴエアアアアアアア!』『ヴァアアアアアア!』
『ゴボバアアアアア!』『ブベエエエッ!』
落下の衝撃を感知した体内の爆弾が作動……
『ギャッヴァアアアッッ!』『ジャリブアッ!』『ジャギッガアアアアアア!』
『ヂャッヅビョオオオ!』『ズビル、ボアアアアア!』『ヴェダルヅアアアア!』
『ヅィラッギャ!』『ヂッヴァアアアア!』『ヴィンズ、ベッゲエエエエ!』
爆炎と爆風はメスガキを木端微塵にしながらゾンビの大群を吹き飛ばし……
『ズォルブゲエエエエ!』『ヴェックジ、ボラッボオオオ!』『ジャッバアアアアアゾオオオ!』
『ブルズバアアアア!』『ヴィバイッダアアア!』『ガッブ、ボオッ!』
『ビゴボ! ガブ! ズァッブウウウ!』『ボゴラッヅウウ!』『ゴヴォヅオオオオオ!』
硝子瓶の中身――本来は火炎瓶の燃料として用いる"砂糖とバターを溶いたガソリン"――が燃えながら飛び散ることで、"炎を纏った肉片"や"半固体の炎"と化してゾンビどもに襲い掛かり、高温で粘り気のあるそれは奴らに纏わりついたまま腐肉を延々と焼き続けるだろう。
『おー、いいねえ。いい感じに燃えてやがるぜ……人を襲い、獣を傷付け、街を荒らす……見た目に違わず悪さしかしねえ劣等どもとて、最低限有機物らしい役立ち方はできるらしい』
適当な地面に突き刺しておいたプラズマ・ノダチを抜きつつ、慌てふためくゾンビどもの前に躍り出る。
『ヴアアアアアア――
『グガアアアアアアア――
『グオオオオオオオオ――
『やかましい』
『ヴエエエエ!』『ヴォエエエエ!』『ヴッバアアアア!』
騒ぐゾンビどもを爆弾で蹴散らす……これで残り一つ。だがそろそろ補給用のドローンが到着する頃だ。
『それに、爆弾以外にも武器はまだまだ届くしなァ』
裏方から性能テストを頼まれてた武器が幾つかあったハズだ。
その辺諸々も兼ねて、こいつらで思う存分"遊び尽くす"としよう。
『ちったあ長く耐えてくれよ。新作試す前に全滅されちまったんじゃ、こっちもやってらんねぇからなァ。
読者はてめえらが俺によって蹂躙されるのを望んでる。俺の暴れっぷりとてめえらの散りザマに期待してるんだ。
てめえらも一応登場人物の端くれなら、読者の期待に応えられるよう頑張ってみやがれってんだ』
そんなこんなでクソ以下のメタ発言交じりにノダチを構える俺だったが……
「いやあああああああああああああああああああ!? なんなんですのおおおおおお!?」
……折角の雰囲気に水を差すのは、聞き覚えのある女の悲鳴。
一体何事だよと気だるげに声のする方を見れば……
『ヴアアアアアアアアッ!』
『ヴエエエエエエエエッ!』
『ブボウッ! ボボボバウッ!』
『ギュイギギャギギャギィーッ!』
『ヴゥゥゥゾダヅォンボゴグォオオオン!』
『ヴィヅォオドグッヅェルゾグッドヴァズボオオオ!』
『ヴオッベケレングッギイイイイイイイ!』
『ズィガガダイズッテブダゴオオオオオオオ!』
「なんですの!? なんなんですのコイツらっ! 昭和のやっすいホラー映画じゃないんですのよ!? 一体どうして追ってくるの!? ほんともうマジ最悪ですわぁぁぁぁぁ!」
案の定、件の女――劣等どもに追われてたのを助けたら気絶してたんでとりあえず物陰で寝かせといた令嬢っぽい姉ちゃん――が、迫りくるゾンビどもから逃げ回っている。
囲いに使ってたゾンビ除けが破壊されたとか、バッテリ切れなんてことはねぇハズだ。恐らく意識が戻ったはいいものの、記憶が飛びでもしたか混乱して囲いの外に出ちまったんだろう。
『何やってんだよ全く……しょうがねぇ、助けっかァ~』
俺個人、あの姉ちゃんには生きてて貰わなきゃ困るんだ。果たしてゾンビどもの目的が何かは知らねえが、ともあれ追い回されてる以上守ってやらなきゃいけねぇだろう。
『死ぬなよ姉ちゃん、今行くぜェ~』
想定外の出来事は不本意だが……"姫君守りながらのゾンビ刈り"ってのも、趣があって悪くねえと、そんな風に思えば何とかなるんだ。
(言うて姫君つーか令嬢だし、あのビジュアルと喋りはどっちかっつーと性根の腐った外道女……世に言う"悪役令嬢"っぽいけどなァ)
まあいいさ。こちとら怪人"死越者"。
見た目も中身も悪役ならば、守る女も悪でいい。むしろそっちがお似合いさ。
本作は完結後、『デッドリヴェンジ!』本編冒頭に割り込み投稿予定です。
感想やブックマークも宜しくね! 質のいい感想をくれた方は幸せになれて楽して生きていけます、たぶん。