虹枝心白の手記
■月■日
今朝、警備員の人達がゾンビになった。何故だ。誰も噛まれてはいなかったはず。何故なんだ。
もしくはもう、そんな段階は過ぎているというのだろうか……
子供たちに危害が加わる事だけはあってはならないので、処理は迅速かつ的確にこなす事が出来た。しかし気分が悪い。昨晩まで共に生き抜こうと誓い合った人達の最期がアレだなんて、浮かばれない。
研究者が仏教を唱えるなどおかしな話だろうが、彼らには安らかに成仏してほしいものだ。彼らはあの子たちを見捨てないでいてくれた仲間だから。
■月■日
記し忘れていたが、私と警備員を除く他の職員は子供たちを見捨ててパンデミック初期に研究施設を飛び出して行ったっきり、誰一人として戻って来てはいない。つまり警備員の彼らが全員いなくなった今、ここでは私がただ一人の大人という訳だ。私があの子たちを守る最後の砦だ。
手段は選ばない。あの子たちを守るためなら何だってしてやる。それがかつての法にどれだけ反していようが、倫理や道徳をどれだけ踏みにじるものだろうが構うものか。
私はあの子たちを守り、生かす。それが私に許された、たった一つの贖罪なのだから。
■月■日
古くから伝わることわざにもある通り、生き残るためには己を知るだけでなく敵も知らなければならない。私はヤツらを研究する事にした。
失敗すれば私は間違いなく死ぬ。しかしやるしかない。生き残るためには。あの子たちを守るためには。
大丈夫。研究は私の唯一の得意分野だ。
■月■日
万全の安全対策の下、どうにか三体の捕獲に成功。防護服越しとはいえ、腕に噛みつかれた時は終わったかと思った。だが、ひとまずは無事だ。
ソレらをサンプルとして、研究を進めよう。
■月■日
なんてことだ。ふざけるな。これが真実だって言うのか。




