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ハイエンド・ヒューマノイド ~異能で生きるゾンビ世界~  作者: ポテトギア
第一章 パンデミックと異能力
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大切な人を守るため

 ここのコンビニには周辺を通った時にたまに寄る程度しか来た事が無いので、周辺の景色も見慣れていない。だがそれでも分かるぐらいに、道路に駐車された車や所々にある血痕、崩れ去ったブロック塀など非日常の色はしっかりと残っている。


 そんな景色をぼーっと見ながら見張りを続けるのはなかなかに暇だ。こんな時、トランプとかを生み出せない俺の能力は少しおしいと感じてしまう。と言っても一人じゃタワー作るぐらいしかやる事ないけどな。


「そういや、ゾンビ全然見ないな」


 入口から外を覗いても、人を喰らう奴らの影は見えない。夜は大人しくしてるのか、それとももっと大きな市街地に集まってるのか。前者ならそれでいいんだが、後者ならこの先が大変になってくるな。俺たちの目的地、街の方にあるからなぁ……。


「オイ、何してんだ」

「うひゃあ!?」


 誰もいないはずの背後から突然声をかけられ、思わず声を上げて飛び上がってしまう。振り向くとそこには大きなウインドブレーカーを脱いでパーカー姿の双笑(ふたえ)が立っていた。いや、この気の強い雰囲気は隻夢(ひとむ)か。


「なんだ、起きてたのか……」

「いや、双笑はまだ寝てるぜ。だから代わりにオレが体動かしてんだ」


 彼女はいわゆる二重人格というやつらしいが、そんな便利な事もできるのか。


「ンで兄ちゃんよ、何で交代しねぇんだ?もうとっくに時間だろ」

「あ、いやー、何か起こすの悪いなって思って」


 気の利いた事でも言えればよかったのだが、結局浮かばず思ったままを伝えてしまった。


「ほら、明るく振る舞ってたけど、双笑も疲れてそうだったじゃん。唯奈も今日は疲れただろうし」

「そう言う兄ちゃんは疲れてねぇのかよ」

「まあ、そりゃ疲れたよ。死にそうになったし」

「なら休めばいいじゃねぇか。その為に交代で見張るって決めたんだろ?」

「それはそうなんだけどさ。まあ俺はもう少し頑張れるから」


 家で守られながら生き延びていた今までとは違う。今日からは外の世界で、本当のサバイバルが始まるんだ。その為には今まで以上に頑張らなければいけないんだ。その意気込みを伝えようと隻夢を見ると、何故かムスッとしたような顔で俺を見ていた。


「……どしたの?」

「兄ちゃんさぁ、自分を労りなよ」

「……?はい」


 別に無理して働いたりしてないけどな……何か意図があるのかと隻夢を見るが、それきり何も言わない。この話はここまでのようだ。


 隻夢は俺がもたれかかっているレジカウンターにひょいと飛び乗りあぐらをかいた。双笑の時とは違ってパーカーのフードは被ってないし、中のシャツが見えるぐらい前を開けてラフな格好になってる。話し方や雰囲気といい格好や仕草といい、人格が違うとほんとに別人みたいになるな。


「兄ちゃんたちは、ずっと二人で暮らしてたのか?」

「え?ああ、唯奈と二人だな。さっき双笑に言った時に聞いてたかもだけど、俺たちの両親はパンデミックの前に事故で死んじゃってな。それからずっと二人暮らしだ」

「へぇ……そんでゾンビがうろつくようになっても二人で生きてると。すげぇな」

「凄いって……お前と双笑もそうなんじゃないのか?」

「え?」


 双笑は今日家を出たばかりだと言っていた。そして彼女は俺たちと会った時からずっと一人。この世界で一人暮らしなんて俺たちよりも大変だったはずだろうに。もう一つの人格である隻夢と共に頑張って来たのだろう。


「あー、もしかして兄ちゃん、双笑が一人で暮らしてたって思ってんのか」

「えっ、違うの?」

「ああ。父と母と三人暮らしだったよ、双笑は」


 意外に思って聞き返したが、まずかっただろうか。隻夢の表情がほんの少しだけ曇った。


「双笑の両親は、今朝死んだ。目の前でな」

「……ッ!?」

「ゾンビ共が窓ぶち破って入って来やがったんだ。近所の住民も軒並みゾンビ化しちまったからか、周囲のゾンビが一気に押し寄せて来てな」


 ……俺たちの時と同じだ。ご近所さんが皆いなくなって、俺たちの家に殺到して来たんだ。という事はもう、この周辺に生存者は……


「オレの能力でどうにか撃退したかに思えた時、残ってた二匹に両親は噛まれた。そんでゾンビになっていく両親から離れるようにただ歩き、今に至るってワケだ」

「目の前で、か……それは辛いだろうな」


 俺も研究所の火災で両親が死んだって聞いた時は物凄く悲しかった。三か月ぐらい経った今ならこうして冷静に考えられる。それが今朝の出来事で、しかも目の前でゾンビへと変貌していくのだ。それがどれだけ辛いかなんて俺には理解できない。いや、軽く理解していいものじゃない。


「だから兄ちゃんもさっき言った通り、双笑のやつは明るく振る舞っちゃいるが内心かなり応えてるはずだ。そう言う意味では、兄ちゃんが無理に双笑を起こそうとしなかったのは正直ありがたかったぜ」

「そうだったのか……まあ、俺の行動が少しでも助けになれたのなら嬉しいよ」

「けど、だからって他人の事ばかり考えて自滅されちゃ困るからな!」


 隻夢はこちらに向き直り、ビシッと俺を指さした。


「兄ちゃんにはこれからも双笑を守る手伝いをしてもらうんだからよ」


 これからの、明日からの話だ。俺と唯奈に付いて行きたいという双笑の申し出は、俺も唯奈もすぐにうなずいた。そもそも断る理由もないし、もう一人いるというのは戦力的にも精神的にもありがたい話である。だから明日からは行動を共にする事になったのだ。


「もちろんオレも最優先で双笑の事は守るつもりだが、一緒にいる以上、兄ちゃんにも頑張ってもらうぜ」

「それはこっちの方こそ勿論だ」


 差し出された拳に、俺も軽く拳をぶつける。

 翠川双笑の副人格として、隻夢は双笑を死んでも守るつもりだろう。ならば俺も、ゾンビのはびこるこの世界から唯奈も双笑も守って見せる。俺に異能力が目覚めた理由があるとするのなら、きっとこのためだろう。



「それはそうと隻夢くんよ。何で俺『兄ちゃん』なの?聞いた話だと、俺と双笑は同い年みたいだけど」

「オレとは違うかもしれねぇだろ。オレという人格がいつ生まれたかどうかはオレにもよく分かんねぇし、何か兄ちゃん年上っぽいから年上でいいだろ?」

「んな適当な……」


 強い能力を持ってるのは知ってるが、この大雑把な子、ほんとに頼れるのだろうか。ゾンビと間違えられてうっかりぶっ飛ばされたりしないよね?

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