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カラポン・ザ・ストーリー  作者: 鈍行彗星
1『カラポン・ザ・ストーリー』
20/21

8「GA」part2

すみません、1日遅れました

 一階に降りると、あまり嗅ぎ慣れない匂いがする。これはたぶん…コーヒーだ。

「ありがとう、モーニングコーヒーなんて久しぶりだねえ。うん、いい香り」

「向こうは薄いか濃すぎるか極端でさ。自分好みは自分で作ってかないとね」

 母さんの話し声。それからもう一人…低い声が聞こえる。

「兄ちゃん」

 二人が揃って振り返る。やっと起きた、とあきれる二人の表情は、何も違和感を感じさせない。

「お前も飲んでみるか、コーヒー?」

「…いらない」

 意識して普通の表情を作って、椅子に腰を落とす。その瞬間、食卓に『BOOOO!!!』と、すごい音が炸裂した。…いや、『BURIBURIBURIiii!!!!』の方が、正確かもしれない。

「はっはっは!やっぱり引っ掛かった!! 全然成長してないなあ、お前は」

「ないない、これっぽっちも進歩してないよ、あっはっは!!!」

「やーいクソ兄の屁コキたれー!」

 …椅子のクッションをどかすと、中から平べったくなったゴム風船のようなもの…BURIBURIッションが出てきた。『Oh!?』とか叫んでるキャラクターがプリントされているのを見て、なんとも言えない、悔しい気持ちになった。

「飲むか、コーヒー?大人の味だ」

「いらないっつってんだろ…!」

 ペシャン、とBURIBURI クッションが床に叩きつけられたのを見て、三人はようやくまともな顔になったらしい。

 ショウ兄………兄ちゃんは、コーヒーを口に入れると、俺の向かいの椅子に腰を下ろした。

「何怒ってんだよ? 人前で屁をこくような弟に俺は育てた覚えはないぞ」

「そんなことよくも言ってられんな…林檎が、林檎がさらわれたんだぞ! 何でそんな平気な顔してられんだよ、信じられねーよ!!」




 えっ、と声をあげたのは兄ちゃんではなく、母さんと、桂の方だった。兄ちゃんはたいして驚いたそぶりも見せず、自分のコーヒーをうまそうに啜り続けていた。

「その話は後で、2階でしよう。お前も、一口飲んでみろ」

「いらないって言ってんだろ…!」

 ガツン! と、テーブルを俺が叩くより早く、兄ちゃんは俺のカップを持ち上げていて、コーヒーがこぼれることはなかった。そしてそのまま、兄ちゃんはグラスにコーヒーを移すと、「お前はこっちかな」と、砂糖と、牛乳と、そして氷とを入れて、スプーンでかき混ぜた。

「林檎って、蒼井林檎ちゃんのこと?まだ付き合ってたの、あんたたち」

「まあまあ、母さんは口出しなさるな。…お前の部屋に行こう、拓二。な?」

 いらないって、と、言い返す間もなく、兄ちゃんは足でドアを開け、両手にカップとグラスを持ったまま階段を上っていったらしかった。桂がついていこうとして「お前はだーめ」と追い返されていた。

「いいもん、勝手に聞いちゃうから! あ、ていうか壁がまだ直ってないじゃん」

「ああそうだ、今日それで業者さんが来るから。部屋片付けといてね。聞いてるの、拓二?」

 俺は特に返事をすることなく、兄ちゃんを追ってリビングを出ていった。桂はどうしようかと思ったが、一歩引いて道を譲ったので、無視することにした。

(何か喋ってきたら、髪でも掴んでいたかもな…)

 血が上った頭が、急速に冷めてきたような気がしていた。


つづく

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