8「G.A.」
兄ちゃんがいた。自慢の兄ちゃんがーーー。
『おらっ、ショウ!置いてくぞ』
カッコ良くて、頭も良くて、走るのが早くてーーー。
『なあにやってんだよ。ほら、来いって』
何をやっても、かなわなかったーーー。
『おーし、行くぞーっ林檎ーっ!』
『アハハハ、待ってよカラポーン!』
兄ちゃんには、何一つ、勝てなかったーーー。
『───そう。お前に林檎は殺せない』
ーーーーー
「…にい、拓兄ぃ! ………起きろおーーー!!!」
………頭が痛い。ガンガンと響く愚妹型目覚まし時計のスイッチを探ろうとして、逆に目覚ましに頭を叩かれた。
「エッチ!バカッ!どこ触ってんのよっ!!」
「…るせーなー。そんなに騒がなくたって起きるっつーの」
と言いつつ、まぶたは1ミリも開かなくて、逆に布団をかき集めて、奥に奥へと体はしまいこまれていく。どこぞの如何わしいパソコンゲームの世界ならば、ここで妹の桂がスーパーダイビングジャンプを披露するなり、あるいは一緒に布団の中へ入り込んでくるなりするところかもしれない。
しかし、うちの桂は一味違う。違いすぎて、まるで味気も無いのだが、しかし効果は抜群な一撃を………つまりは、掛け布団を全部ひっぺがしていきやがったのである。
「早く起きてってよ! せっかくショウ兄いが来てるんだから!!」
ドサッ。
…一回転して床に落ちた俺は、すっかり眠気がとれていた。そして俺はワイシャツの掛かったハンガーに手を伸ばすと、寝間着をベッドに投げ捨てた。
「ちょっ…レディーの前で脱ぐやつがあるかぁー!」
「うっせーな、見たくねーなら出てけよ、ガキが!」
────
一階に降りると、あまり嗅ぎ慣れない匂いがする。これはたぶん…コーヒーだ。
「ありがとう、モーニングコーヒーなんて久しぶりだねえ。うん、いい香り」
「向こうは薄いか濃すぎるか極端でさ。自分好みは自分で作ってかないとね」
母さんの話し声。それからもう一人…低い声が聞こえる。
「兄ちゃん」
二人が揃って振り返る。やっと起きた、とあきれる二人の表情は、何も違和感を感じさせない。
つづく…