表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カラポン・ザ・ストーリー  作者: 鈍行彗星
1『カラポン・ザ・ストーリー』
18/21

7「本当のカラポンpart.10」

「ふぅん。短いのによくまとめてるじゃないか」


 ―――部屋の中から、若い男の声が聞こえてきた。

「あ…」

 俺はその顔を見たことがあった。いや、よくよく知っていた。

 肌は黒く焼けていたが、俺の記憶の中のその人とまったく変わらない。両脚を椅子の上に乗せ、だらしなく背もたれに全身を預け、首を少し傾けながら画面を見つめているのも―――全部、あの頃と変わっていない。

「ん…なんだ、帰ってたのか」

「………兄ちゃん?」

 二年前に家を出た兄が、正一兄ちゃんが帰ってきていたのだ。それはつまり―――

「久しぶりだな拓二。いや、カラポンだったな」


 この家に、“本当のカラポン”が帰ってきた、ということなのだ―――。




―――夜、貝梨高校保健室。

 6月の陽気でもすっかり真っ暗になった校舎の中で、用務員室と、この場所だけは小さな電気がつき続けていた。

「あなたの意見を聞きたいのだけれど、………唐林くんの夢について、あなたならどのように説明する?」

 今まさにノートパソコンを閉じたばかりの小松先生は「え?」と、一瞬何を聞かれたのかをよく考えた。そして、人差し指を唇に当てたり、親指に折り畳んだりして出た結論に、少々首を傾げながら、答えた。

「…願望、なのでしょうか。夢ですから、無意識の意識、素のままの感情が原作になって、あのようなストーリーになっている、という風に思うんですけど…」

「なるほどね」

 クリック音が部屋に鳴って、パソコンのスピーカーから激しい銃声が鳴り響く。静かな保健室には、それがよく響き渡った。

「わっ、あああんまり音おっきくしないでくださぁいぃ!?」

「こんなの毎日見てたら、そりゃ疑心暗鬼にもなるわよね。でもだからこそ、この夢は不自然すぎるわ、誰かの意思を感じる」

 耳障りなノイズが入ってきて、音量を下げるのかと思いきや、逆に芝井先生はスピーカーに耳を張り付けた。小松先生は両耳を人差し指で塞いでいた。

「もうっ、止めてくださいよおっ!」

「『…キヨ、……ラ、』ん…?」

 ディスプレイの大半を独占していた白と黒の煙が薄まり、その中から、2人の人間が対峙している影が浮かび上がった。

 …いや、人間なのだろうか?

「…な、何ですか?」

 顔は確かに、カラポンと蒼井林檎のそれに違いない。だが、手も、足も、体も、『人間』と呼ぶにはあまりにも無機質な、生命の暖かみを感じさせないほどに、ナイフのように白く尖っていた。いや、『ナイフ』になっていたのだ…?


『―――よ、カラ――!!』

『――――――、―――!!』


 再び切りつけあう2つの影。小松先生があまりにも耳障りな悲鳴を上げるので、芝井先生はそっと、クリックしてプレーヤーを閉じた。

「…『好きよ、カラポン』か…、唐林くんも案外、冷たい子なのね」

小松先生は、まだ目を閉じ、耳を塞いでいた。



8につづく...

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ