7「本当のカラポンpart.8」
「小雪ちゃん!!」
粟野が背負っていたのは、病院から行方不明になっていたメディア部一年部員、野村小雪だったのだ。
「どこで見つけたの? 粟野君、ちょっと話を聞かせてもらえるかしら」
「いやその、俺も何て説明したらいいか………」
コーンキーンカンコーン―――
間の抜けたチャイムが保健室のスピーカーから鳴り響く。これは予鈴ではなく、授業開始の8時50分のチャイムだ。
「あ、本鈴ですねぇ」
「…粟野君、1時間目は何? 先生には後で事情を言っておくから、話を聞かせてもらえない?」
粟野は一瞬どうしようかと迷ったが、半ば先生に促される形で
「…ハイ」と答えていた。
―――――
何か、独特な臭いのする部屋だった。薬品か香水の中間なような臭いがする。
「…あれ? 俺どうしたんだっけ…?」
なんだかぼんやりとして、頭に力が入らない。まるで脳みそを持ってかれたような気分だ。「…空っぽ頭、カラポンぽん」
不意に、林檎がよく口ずさんでいたフレーズを思い出した。…そうだ、俺は林檎のことを先生に聞きに来たんだ。
「そうだ…保健室に来て、芝井先生とコマっちゃんに会って、それから…」
血の巡りが良くなってきて、段々と記憶が戻り始めてきている。体を起こそうと手をついた、その時だった。
―――むにゃ。
「へっ………あっ、え、わ、わわぁー!!?」
どんっ、ドシン! タンスにゴン!!
…けたたましい音に気づいたのか、シャーッとカーテンを捲る音がして、眼鏡の白衣姿が現れた。
「あらあら。その様子じゃ寝起きに胸でも触って、ベッドから落っこちたって感じね」
「胸じゃないっス、腕です! …っつか、何で隣に女の子寝てるんすか!」
精一杯の言い訳をするも、実際先生の言うとおり過ぎて、心臓がバクバクしていた。起きてないよな、その子…?
「あら。ただの女の子じゃないわよ。よく見てご覧なさい」
「よくって…」
恐る恐るベッドから首を出すと、うちの学校の制服を着た女子生徒がやはり寝ている。ブランケットが掛けられているが、真横から見ると凹凸がハッキリして、なんだか背徳的な気持ちになる。
…だがもっと驚いたのは、その顔を見た時だった。
「えっ…ウソ、小雪ちゃん?!」
「そう、小雪ちゃん。どういう訳か、粟野君が拾ってきたらしいの。」
拾ってきた? …粟野が? 俺には先生の言っている意味が、まったく分からなかった。
「まあゆっくりしてってよ。あなたには聞きたいことがいっぱいあるし、小雪ちゃんの話も聞きたいでしょう? ここなら誰にも邪魔されないわ」
「でも授業が…」
授業? と、先生は首を傾げた。
「何時間目? もう4時だけど」
「へ?」
傍にあったの置時計を覗くと、確かにデジタル数字は16:04を示していた。…朝来たはずなのに、何で?
「粟野君もいるわ。こっちへいらっしゃい」
「へへっ、相変わらずエロエロしいなあ、カラポンよぉ!」
粟野が顔を出して、いつもの調子で笑い声を上げる。なんだか、今だけはそれがとてもありがたく感じたのだった。
つづく…