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アマルガ大記  作者: なるなる
第一章 1つめの幻視
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ノーディェンス(Nodens) Side1

 アザェトホースが生まれるずっと以前から、ノーディェンスは存在した。〝彼〟自身、自らが〝何時〟生じたのかさえ忘れるほどの時が流れる中で、一つ確かなことがあった。それは、〝彼〟が宇宙の〝深遠なる意思〟として、その深淵で蠢いているということだった。その〝彼〟が習慣としていたのは、ゆっくりと時を数えること。何者も〝彼〟よりも長命な者は存在し得ず、〝彼〟にとっては全てが移ろい行くものに過ぎず、時間を含めた何物も〝彼〟の上を通り過ぎて行く存在にしか過ぎなかった。宇宙の冷たさに慣らされるように、〝彼〟の時間も冷え切っていたのである。


 そんな〝彼〟にも、心躍らせる出来事があった。


 それは、その永い永い時の中で、時折垣間見る、宇宙に散在する異種族の者たちが集結して「都」を作り、ネットワークを張り巡らせ、(すこぶ)る冷え切った宇宙を生き抜くために協力する姿。彼らは、自分たちが生まれた宇宙を、自分たちの活動でポジティブなものとしようと努力していた。


 そうして隆盛を成した「都」の名を、カーォコサと言った。この「都」は、今の地球人において、一説に、ヒヤデス星団のアルデバラン(Aldebaran)付近にあるとされるカルコサ(Carcosa)と伝えられるものである。そしてその「都」カーォコサが崩壊して後に伝説となって以降、宇宙に散在する異種族が形成する「都」の形態(一種の共和体制に近い)を、カーォコサと表現するようになった。


 今日、カーォコサとは、一つの「都」の名前というわけではなく、「都」の一つの形態でしかないのである。当然ながら、そうした「都」とは逆の形態(一種の専制政体)を表現する言葉もあり、それはハダスァーアと呼ばれる。これは同様に、今の地球人において、ハスター(Hastur)として伝えられているものである。


 かつて、ロバート・ウィリアム・チャイムバーズ(Robert William Chambers)が、その弟であるウォルター・ボートン・チェンバース(Walter Boughton Chambers)に捧げた、『黄衣(おうい)の王』「第一幕第二場 カッシルダの歌」。これは、黄衣の王やカーォコサについて言及されている、カッシルダを歌い手とする歌である。


 その歌い手であるカッシルダとは、地球人を基準とすればこそ、ウォルターのことである。更に言うと、ウォルターのルーツに当たる。この歌を、ウォルターから聞き手として受けたロバートは、自身が王の襤褸(ぼろ)をまとった存在のように感じるほどのインスピレーションを得ており、それを『名誉修理者(評判を回復する者)』へと結実させている。


 後世、その内容をして、黄衣の王は、黄色い襤褸を纏う蒼白い仮面を被った人物として認識されるばかりか、ハスターの化身であるとさえ言われる。


 が、そうした解釈は、ある意味では正しく、ある意味で正しくはない。


 というのも、カッシルダ(Cassilda)が、この歌を歌うに至った背景にある。


 そもそも、カッシルダは、実に美しい人であり、それが故に、セリム(Selim)と呼ばれる一勢力に囲われた人であった。「人」と表現してはいるが、今の地球人の認識に基づいて人なのかどうかは分からない。ただ、その美しさは、ある一点において、稀有さを放つものであった。


 その一点とは、彼女が、当時として伝説となった「都」カーォコサの隆盛ぶりに大きく貢献したイーェス(Yith)という種族の流れを組む者であることだった。Yithという言葉で直ぐにお分かり頂けるだろうが、今の地球人において、それはイース(Yith)として伝えられる者たちである。


 イースと言えば、円錐体生物を連想する人もいるだろう。が、その真の姿は、必ずしも円錐体生物ではない。彼らには各々安定した形態があり、その形態に沿った在り方を得ることが出来る。つまり、その姿には嘘偽りがなく、その真実性が他人の心を打つわけである。


 が、伝説の「都」カーォコサが崩壊して後、そうした形態変化を可能とする性質がために、域内に残された彼らは往々にして玩具的位置付けに(おとし)められていた。当然ながら、その所有者の望むような形態を取ることを要求されて日々を過ごしていたわけである。もちろん、それは倫理的には非難されることであり、カッシルダを所有する人物は、カッシルダを所有していることを公にするわけにはいかなかった。


 が、そんなイーェスにおいて、形態変化を可能とする性質に基づく別の能力があった。その能力とは、「精神を交換する」とも表現されるが、一種の感応力である。イーェスの所有者足る有力者たちは、自分たちの所有するイーェスの能力の強さを仄めかしつつ、お互いの腹を探ったりするのも日常茶飯事であった。とはいうもの、伝説の「都」カーォコサが崩壊するに先立ち、イーェスの大部分は域外宇宙への追放処分を受けていたため、域内にあるイーェスの数も極端に限られたし、有力者たち全てがイーェスの所有者であるわけではなかった。

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