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アマルガ大記  作者: なるなる
第一章 1つめの幻視
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カダァス(Kadath)

 光に溢れた文明。


 ハワード・フィリップス・ラヴクラフト(Howard Phillips Lovecraft)の表現を借りるならば、「夕映えの都(The Sunset City)」と呼ばれた。この場合の「夕映え」とは、厳密には「落日」を意味するわけではなく、その「都」に在する人たちの時を基準にして古き頃に隆盛を誇った、宇宙に散在する多種族によって構成された「都」の再興を願ってのことであった。その「都」は、理想とされる古き頃の「都」には到底遠く及ぶものではなかったが、〝彼〟の郷愁を誘うには十分なものだった。


 その「都」に在する人たちは、理想とする古き頃の「都」を思い、ポジィティブに協力して活動をし始めていた。そして、見るも活気に満ち溢れた魅惑的な空間を宇宙に作り上げた。例えるなら、宝石箱を引っ繰り返したような極めて(きら)びやかな大都市が宇宙ステーションとして存在するような形だ。そればかりか、宇宙に対して多くのこと知り係わることに努めると共に、よりポジティブであろうとしていた。そのポジティブさは多岐に渡っており、それが故に多くの人たちが活発に入れ乱れ、雑多な感情でむせ返っており、それが、その都の活気を産んでいた。


 理想とする古き頃の「都」。


 伝説化した「都」があった。その「都」には、イーェス(Yith)と呼ばれる者たちが多く存在していた。イーェスは他の種族たちに比べれば精神体に近く、その性質に基づく感応力は広く深かった。そのため、その性質を利用したネットワーク形成に利用された。彼らの多大な貢献は、彼らの感応力によって、宇宙に散在する異種族の者たちがネットワークを形成し易かったことに尽きる。そしてそのネットワークを可能な限り維持するため、「ネットワークの効率化を図るため」として、イーェスの人たちは種族としての純化が強いられていた。


 種としての純化が強いられたイーェスの人たちは、精神体としての性質を強められて行った結果、存在として不安定な種になりつつあった。そのことを危惧したイーェスの人たちは、「都」において、他種族との交流を認めるように要求した。


 が、認められたのは、イーェス程とは行かなくても、感応力が高い種の人たちに限られていた。「イーェスは、ネットワーク形成の要」という不文律が社会で形成されていたため、ネットワーク以外の道は許されておらず、建前上は他種族との交流が認められたものの、その実質は感応力の更なる強化が求められただけであった。


 そうしたイーェスの人たち内部に溜まっていく不満を背景にしてかどうかは分からないが、その多大な貢献によってイーェスの人たちが評価される半面、イーェス論者も横行するようになっていた。そして何時しか、「イーェスによって、我々は操作されている」という陰謀論さえも出るまでになっていた。


 当然ではあるが、イーェスたちは利用されるにあたり、イーェスたちの意思による操作・干渉の回避が順守されることが前提にあった。事実として、イーェスたちは、自分たちの処遇に際して積もる気持ちはあれど、それを真面目に守っていた。が、その真面目さが不幸を招いたとも言える。


 というのも、そうしたイーェスの人たちを利用して形成されたネットワークに慣れ切った人たちにおいて、その思考パターンが並列化した向きを強めていたわけである。


 今の地球人において、『人間は、考える葦である』という言葉が有名であるが、そうして思考パターンが並列化した向きを強めていた人たちは、『考える肉の塊』(盲目のもの)に過ぎなくなっていた。イーェスたちの意思による操作・干渉の回避が徹底して順守されていたからこそ、イーェスたちの感応力が高まれば高まればこそ、逆に、ネットワークで繋がる者たち通しが互いに及ぼし合う影響力もまた大きくなっており、その悪影響をイーェスたちに全て責任転嫁したわけである。


 そして、「イーェスによって、我々は操作されている」という陰謀論に火が付くや否や、イーェスへの反発は大きくなるばかりで、イーェス不要論さえ飛び交うまでになった。


 当然ながら、イーェスの人たちは自分たちがモノ扱いをされていることに憤ることを通り越して情けなくなっていた。そしてその不満に合わせるように、イーェスの若者たちをしてネットワークの分断を招く事態にまで陥るところも出て来た。が、それがまたイーェス不要論を加速させる一因となってしまった。

結果、「都」での裁定が下されることになった。下された裁定は、それ以前の多大な貢献を熟慮した上での追放処分だった。


 その頃になると、イーェスの人たちは、その多くの者たちが精神体に程近くなっていた。それゆえ、そんな彼らは「待ってました」と言わんばかりに、自分たちが穏やかに暮らせる場所を求めて旅立って行った。そしてそんな彼らにベースとなる星として用意されたのが、当時として並みの生物ではとても生存は難しい星であり、当世の「都」の中心をなしていた星に比べれば遥かに小さくとも「精神体であれば問題はないだろう」と目された星。何時かは、並みの生物も住みやすい星になることは考えられるが、彼らが送られた頃からすれば遥かに先のことであり、「精神体でなければその時間に耐えられないだろう」と目された星。その星とは、人間が『地球』と呼んでいる星。


 彼らにとって、その地(星)は、カダァス(Kadath)と呼ばれる、宇宙の〝深遠なる意思〟との約束の地。

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