闇の子
宇宙には、かつて繁栄を築いた文明があった。
その文明は煌びやかであり、光に溢れた文明であった。
しかし、光の中にあると、その光に隠れた闇は見えないもの。
得てして、その闇さえ否定してしまう。
その文明に生きる人たちにおいて、光は光であり、光を脅かす闇など知らぬものであった。そんな中、その文明において、闇の存在を認めた者がいた。その者は、その闇の「脅威」を認めて、文明に属する人たちに警告を行った。闇が迫っていることを知らせようとしたのである。
しかし、その文明の人たちの多くは、聞く耳を持たなかった。
それと同じ頃、闇の中でも変化があった。
光に溢れた文明。その煌びやかさ、その光の度合いの強さに、闇は何時しか、自分が闇であることを認めた。ただ、文明の光に手を伸ばすのではなく、破壊するのではなく、「触れてみたい」とさえ思った。しかし、実際に触れようとすれば、その文明を破壊してしまいかねない。
そこで、闇は、その手の先の一つ欠片に、命を吹き込むことにした。
そしてその命を、「闇の子」を、光の文明の人たちのところに送った。
もしかしたら、闇に関心を持ってくれるかも知れない。もしかしたら、闇はその光の文明を壊すことなく、愛でることが出来るのかも知れない。そうした淡い期待を乗せて。
しかし、光の文明の許に辿り着いた「闇の子」に対する仕打ちは、酷いものだった。
そもそも「闇の子」であるために、出自が不明であり、認められない。光の文明において闇の存在を認めた者が、その庇護者になったが、それ以外の者たちにおいて、由来の分からないものへの忌避感は強かった。それでも、「闇の子」は、闇の善意を継いで生まれており、光の文明に馴染もうとした。健気なほどに。
それは、件の庇護者あってのこと。
「闇の子」ではあっても、その内奥は、光の文明の人たちと大差ある訳ではなかった。それを考えればこそ、件の庇護者の存在は大きかった。その者が「闇の子」の庇護者になったのは、半ば押し付けられた形とはいえ、「闇の子」と接する中で、庇護者としての面を強くするようになって行った。
それを決定的にしたのは、光の文明の許での、ある仕打ち。
光の文明の議会の決定下、「光の文明の者は、光の下に居ても良い。しかし、闇に連なる者は、闇に帰れ」と、「闇の子」を技術的に光を遮断した空間に閉じ込めたのである。「闇の子」には既に命があり、闇に帰ることなど出来る訳もない。しかし、光の文明の議会は、それを支持する人たちには、その違いが分からない。
もしくは、分かった上で、そのような決定を行っていた。
その措置下で、「闇の子」は流石に打ちひしがれた。
「自分は、何のために生まれたのだろう」と。
「光の文明を見たかっただけなのに、どうしてこんな目に遭わなければならないのだろう」と。
「光の文明の許に生まれていたら、この境遇は変わっていたのだろうか」と。
そうして、「闇の子」の打ちひしがれる様子。
それをモニター越しで見た庇護者は、議会の決定の過ちに気付くことになった。一方で、他の者たちは、「闇に連なる者なのだから、打ちひしがれる様子は、そのように振る舞っているだけだ」と、警戒心を更に高めた。
だとしても、果たして、そのままで良いのだろうか。
その一点を示しながら、議会を説得し、その空間から「闇の子」を解放させた。
解放された「闇の子」は、庇護者によって温かい食事を提供され、その温かさは分かったものの、どうしても薄皮一枚を挟んだような気持ちになってしまっていた。どうして解放されたのか。「どうして、庇護者は、こうも優しくしてくれるのだろうか」と。
その理由が、分からなくなっていた。
いや、最初から、分かっておらず、そのことにようやく気付いたのかも知れなかった。
「闇の子」が、そのことに気付いた時、途轍もなく重たい物を感じる他はなかった。