episode.09
「こんばんは。岩咲先生の弟さん?」
そうですよね、そうなんです。それがスタンダードな反応だと思います! はい。
「弟じゃないです」
おぉーっと、このまま蒼衣くん放置はまずいことになりかねない。でも前回のこともあるし、どうやって切り抜けよう!?
「弟さんじゃないとすると…いとことかかな?」
「いとこじゃないです」
「あ、あの、佐伯先生、スマホありがとうございました! 蒼衣くんももう遅いんだから、制服でうろうろしません。じゃ、佐伯先生、今日は失礼します」
もう何か言うとボロが出てしまうし、佐伯先生には嘘とかつきたくないし、これが最善の策なんだ。
蒼衣くんを連行し、ようやく駅まで来た。たった5分の道のりがなんとも長く感じたのは今日が初めてだった。
「さっきの誰?」
「職場の先輩です。てか、なんで蒼衣くんがいるんですか?」
「俺の学校」
そういって川向こうを指差す。そういえば、あの制服どっかで見たことあると思ったら、湊の制服だったのか!? 県立八田湊高校と言えば県内でも有数の進学校だし、結構いいとこの子が通ってるイメージが…
「向こう歩いてたら、つぐがいるの見えたから」
「そっか、それで連絡を…たまたまスマホ学校に置き忘れてしまって出られませんでした。すみません」
途中まで方向が一緒だとわかりホームまで話をしながら階段を上る。
「おっせーよ、蒼衣。もうすぐ電車来るって」
「今行く」
どうやら先に来ていた友だちがいたようで、これ以上一緒にいるのも気が引けたので蒼衣くんに「またね」と声をかけかる。
「何言ってんの? どうせ途中まで電車一緒なんだから、つぐも行こう」
そういうとわたしの手首をつかみ、数人いる男子高校生のところへ連れて行かれた。みんなわたしを見るなりキョトンとした表情だったが、眼鏡をかけた少しインテリな雰囲気の男子が話しかけてきた。
「もしかして、つぐみ先生? 俺、広瀬右京って言います。蒼衣の幼なじみで」
とっても礼儀が正しく、よく見ると蒼衣くんに負けず劣らずのイケメン! 類は友を呼ぶってまさにこのこと。
「つぐ、あんまり見ない」
「へ?」
「右京は目から惚れちゃうビーム出てるから、気をつけて」
「何それ(笑)」
蒼衣くんってあんまり喜怒哀楽とゆうか、周りに関心無さそうだけど、冗談を言うくらいやっぱり幼なじみとかは違うのかな。
「仲良いんですね」
「あ〜、まぁ腐れ縁ってやつ?」
3人のうち一番社交的な感じの子が話に入ってきた。
「俺も蒼衣の幼なじみ、片岡匠海。つぐみ先生、蒼衣がお世話になってます」
いや〜、3人揃うと眩しくて直視できないかも…
「右京くんと、匠海くんですね。こちらこそよろしくお願いします」
「で、先生は、蒼衣のことどう思ってんの?」
「どぉって…まだ会って間もないのでなんとも…。あ、でもイケメンってことと、親切なこと、思いやりのある優しい子ってことは知ってますよ」
「さすが、先生。ちょっとしか関わってないのに蒼衣のことわかってるね! でも残念だけど、俺の方が蒼衣のこと知ってっからね!」
「匠海、いい加減、蒼衣離れしよ…」
「右京はいいのかよ! 蒼衣が大人の階段登って、純粋ピュアピュアじゃなくなっても!?」
「純粋ピュアピュアって…あ、蒼衣が引いてるぞ」
「あーおーいー、何でそんな冷たい目で見てんだよー」
「匠海うるさい…」
「ふふ」
「つぐも笑わない」
なんだか蒼衣くんの学生生活に触れられた気がして嬉しかった。蒼衣くんは友だちに愛されてるってことも今日わかったことだな。電車に乗っても3人の会話は途切れることなく楽しそう。
「じゃ、つぐ、俺たちこの駅だから」
「先生さよーならー」
「みなさん、気をつけて帰ってください」
3人を見送りすいた車内で腰を下ろした。スマホがメッセージを知らせる。
『つぐも気をつけてね』
『あと、今度遊びに行こう』
蒼衣くんから送られてきたメッセージを見て、すぐには返事を出来ない自分がいた。