episode.07
とりあえず飲み物を渡したら帰ろう。
ぐっと飲み物を握りしめると、最後の勇気をふりしぼり蒼衣くんのところへ戻った。
「これ、よかったら飲んで」
蒼衣くんが飲み物を受け取るのを見届けると、もう一度頭を下げて出口へと向かった。
これでよかった。と自分に言い聞かせて、人混みの間をすり抜ける。思うように身動き取れなくて、前から来た中年の男性の肩とぶつかりバランスを崩しその場に座り込んだ。
「危ないなっ!」
立ち上がろうとするが、いつも履かない靴で右足が痛いことに今気づいた。それでも人波の邪魔になっていることには変わりないので、痛い足を我慢して立ち上がり人波から離れたところへ移動して靴を脱ぐ。
バチが当たったかな…。ぐったりうなだれる。
「…つぐ」
ぱっと顔を上げると、何でか蒼衣くんがいた。
「蒼衣くん…?」
「大丈夫?」
こんなわたしのこと心配してくれて…
「う、うん、全然大丈夫です! 気にしないで下さい」
わたしの様子を見て蒼衣くんが手を差し出す。
「大丈夫じゃないよね? とりあえずどこか座れるとこ行こう」
顔だけでなく中身もピカピカ! 罪悪感が更につもる。蒼衣くんに手を引かれ近くのベンチに座る。
「ちょっと待ってて」
アイドルとデートとかほんと何考えてたんだろう。蒼衣くん呆れてたよね。
「つぐ、足だして」
蒼衣くんの手にはアクアリウムショップで売られていたイルカ柄のバンドエイドがあった。
「じ、自分でできます!」
「いいから」
少し怒ってるみたいに感じて、それ以上蒼衣くんに抵抗する気にはなれなかった。
「お、お願いします」
足を差し出すと蒼衣くんの細長い指が肌をつたう。
「…っ!」
「ごめん、痛かった?」
「だ、大丈夫です!」
こんなときまで優しい。蒼衣くんに触れられて変な気持ちになったなんて言えない!バンドエイドを貼り終わるまでの我慢!
バンドエイドを貼るとさっきより全然痛くなくなっていた。
「ありがとうございます」
「あと、これ」
わたしの目の前に差し出されたのはふわふわのあざらしキーホルダーだった。
「さっきショップにあって…今日のお礼。…色々驚いたけど…つぐが先生とか、俺と会うの今日で最後とか…」
「うん、ごめんなさい。あざらしありがとうございます。大事にします」
「また、会って。つぐはもう会わないつもりだったかもしれないけど…。今日楽しかったし、ダメって言われると何か…」
「でも…」
「従兄弟なんでしょ? またどっか行こ」
「うん」
なんなの!? この可愛いイケメンは! 思わず返事してしまった。