episode.05
高校生とデートって、いったい何着て行けばいいわけ!? そもそもデート自体何年ぶりなの? 23歳にして干物女とゆう現実をひしひしと感じる。
「やばい! こんな時間!」
結局、高校生相手に気合い入れてるなんて思われたら恥ずかしすぎて、選んだ服は無難にデニム。
つくづく自分の冒険心のなさにがっかりさせられた。
ちょっと早いが20分前に待ち合わせの駅に着いた。駅の階段を上がって、構内にある時計塔までは5分ほど。少しだけ歩くスピードが速くなる。
今日は土曜日で、隣接するデパートや乗り換えの人で駅の構内はごったがえしていたが、時計塔に近づくとすでに蒼衣くんがいるのがわかった。
キャップをかぶって顔はあまり見えないが、長身なのと身体からにじみ出るイケメンオーラが彼だと主張しているのだ。
「お待たせしました!」
「えっと…マッテナイヨ…ボクモ、イマキタトコロ」
て! 何その棒読み!
「えっと、もしかして右京くんに教えてもらったんですか?」
何でわかったの!? と言わんばかりの顔で彼がうなづいた。
右京くんとやら恐るべし!
「それで、お礼なんだけど、蒼衣くんのこと全然知らないので決められなくて…三択にしてきました!」
「1、何か欲しいものがあれば!」
一応公務員の端くれ! 多少のことならどんとこいだ!
「2、ランチをご馳走する! 3、蒼衣くんの行きたいところへ行く! でどうかな?」
かなり抵抗ないラインを攻めたつもりだけど…。でも、ゆきりんもこの前言ってたけど、定期拾っただけでお礼とか怖いよね。右京くんとやらに言われたとはいえ、何故来てくれたのか謎すぎる…。
「……」
うわー、すっごい悩んでる! そのたたずまいすらイケメン! スマホを操作する長い指とか…俯いたときに目にかかる前髪とか…実は左耳だけ小さいピアスしてるとことか…
「そんなに見られると恥ずかしい」
「ご、ごめんなさい!」
思わず見惚れてしまった! 恥ずかしさで蒼衣くんに背を向ける。
「ゆっくり考えてくれて大丈夫だから!」
はぁー、しょっぱなから失敗してしまったー。
「つぐはどっか行きたいとこある?」
「え!?」
「行きたいとこ」
どうゆうこと!? 『つぐ』って呼ばれた!? なぎちゃんがそうやって呼んでたからかな。 心臓止まるかと思った!
「蒼衣くんへのお礼なのに、わたしの行きたいとこ行ったらお礼じゃなくなってしまうのでは…」
「せっかくだから俺だけじゃなくて、つぐの行きたいとこがいい」
な、何なの!? ドキドキしすぎてもう一緒にいるの無理なんだけど。…そういえば、この前クラスの子たちが新しくできた水族館の話してたっけ。ここからそう遠くもないし、王道デートコースって感じで気がひけるけど…今日は一日アイドルとデート! がテーマなんだから、遠慮なく。
スマホで検索して画面を見せる。
「水族館…あざらしのふれあい体験やってる…」
あざらし好きなのかな?
「どう、でしょうか?」
「つぐが行きたいんでしょ? 行こう。ここからなら地下鉄で行けるね」
「…あざらし好きなんですか?」
「え? 何でわかったの?」
何でって。あざらしのこと言ってたの無意識かな?
「秘密です。行きましょう!」
水族館につくと、予想以上に人がごった返していた。シャチやイルカの大水槽を見た後は順路に沿って、水槽を回って行った。蒼衣くんは終始目をキラキラさせて、クラスの子が楽しい遊びを見つけたみたいな顔だった。お目当て? のあざらし水槽では、恐る恐るあざらしを撫でる蒼衣くんが可愛すぎて思わず笑ってしまった。
なんだか、高校生とか教師とか、どうでもいいくらい蒼衣くんを見ていたいと思ってしまった。